再び「王国」と言える日を 福島のサッカーの未来を考えるオンライン座談会

 

 東京電力福島第1原発事故により、静岡県に拠点を移していたサッカー選手育成機関「JFAアカデミー福島」が今春、県内に帰還した。全国高校総合体育大会(インターハイ)サッカー競技の2024年度以降のJヴィレッジ固定開催も決まり、県内サッカー界は東日本大震災10年を機に、新たなステージに入ろうとしている。日本サッカー協会の田嶋幸三会長や本県サッカー関係者に今後の本県サッカーの展望を聞いた。

【出席者】
日本サッカー協会長 田嶋 幸三
JFAアカデミー福島EAST監督 池内 豊
ふたば未来学園高サッカー部監督 砂金 伸
県サッカー協会副会長・専務理事 橋本 善一郎

司会
福島民友新聞社編集局長 小野 広司

◆Jヴィレッジ

 ―震災、原発事故から10年が過ぎ、県内サッカー界は新しいステージに踏み出した。今春、JFAアカデミー福島の男子も帰還した。Jヴィレッジを中心としたサッカー振興と今後の展開は。
 田嶋 日本サッカー協会にとって、Jヴィレッジのような施設は夢だった。1997年にこの施設が完成し、2002年の日韓ワールドカップ(W杯)に向けた準備はほとんどここで行われた。代表強化と指導者養成、若年層育成を三位一体でやってきた。そのかいあって98年W杯からの6大会連続出場につながっている。06年にはアカデミーが開校し、メディカルセンターもできた。ただの箱物にせず、常時子どもたちや指導者がいるサッカーの拠点としての機能を全て兼ね備えた施設になったという自負があった。しかし11年に震災が起きた。そこから10年がたち、アカデミーが帰還できた。福島復興を考えたときに、私は双葉郡にちゃんと人が戻り、再開したJヴィレッジに以前よりも人が戻ることが復興につながると思ってきた。女子の24年帰還もしっかりやり遂げたい。この間にはふたば未来学園も開校した。Jヴィレッジがさらに発展するチャンスだと思う。今後も県協会や県と連携を取り、より良いものにしていきたい。

◆アカデミー

 ―JFAアカデミー福島では、どのような方針で選手育成に当たるか。
 池内 これまでは間接的にアカデミーをサポートする立場で見てきた。帰還の意味もよく理解しているつもりだ。その仕事に携わることができることはとても光栄。コロナ禍で、全国からの募集を1年遅らせようという話もあったが、田嶋会長からこういう時だからこそ募集をしようと背中を押された。この状況で来る選手は覚悟を持っている。生き生きと活動してくれていて、僕自身もいい仕事をさせてもらっている。われわれサッカー界はユースや指導者養成に取り組んできた。私自身もそのバトンを受け継いできたが、若い人にもバトンを渡さないといけない。アカデミー活動を通じていろいろなところにバトンを渡しながら、サッカーやスポーツ界の発展、そして復興にも関われたら非常にありがたい。県内指導者ともコミュニケーションを取っている。それが子どもたちにも伝わり、周りにも影響してくるのではないかと思う。

◆インターハイ

 ―24年度からJヴィレッジでインターハイが固定開催となる。期待は。
 橋本 高体連の方々と打ち合わせしたり、田嶋会長とも話しながらJヴィレッジでの開催を話し合ってきた。本県の代表枠も2になる可能性がある。(県内の高校サッカーは)今は尚志が強いが、枠が二つになればほかの高校の刺激にもなる。大会のスリム化も検討材料。あと2年、いい準備をしていきたい。

 ―インターハイ固定開催で、Jヴィレッジは名実ともにサッカーの聖地となれるか。
 田嶋 私は絶対にインターハイをJヴィレッジに持っていきたいと思っていた。永久にここに定着させたい。Jヴィレッジを高校野球の夏の甲子園のようにできればいい。ただし大会を運営する高体連の先生には負担もかかる。今後のJヴィレッジの運営を考えたとき、施設自体が(大会開催の)運営能力を持たなくてはいけない。インターハイに限らず、女子や中体連、クラブ、シニアの大会をここに持っていきたいが、運営する能力がなければ簡単ではない。例えばアウトプット(外部委託)してでもそれができるようにしていかなければ、今後のJヴィレッジ存続にも関わると思う。震災前、福島県は「サッカー王国福島」と言っていた。そのためにアカデミーが、富岡高がもっと強くならないといけないと強化に取り組んでいた。今は尚志高が引っ張っている。福島がもう一度胸を張ってサッカー王国と言えるようになってほしい。

◆ふたば未来

 ―今回、ユース指導の経験豊富な砂金先生がふたば未来学園高サッカー部監督に就任した。どのような指導を目指すのか。
 砂金 今までの経験をベースに人間教育からスタートし、サッカー指導につなげたい。選手の個性を生かし、意図を持ち、狙いを持って戦えるチームをつくりたい。

 ―人間教育という意味ではアカデミーとも共通する。連携も出てくるのか。
 田嶋 砂金先生には、これまでの指導にアカデミーの内容をプラスしてほしい。今回の帰還に合わせ、男子は(従来の中高6年間から)中学3年間となった。アカデミーから高校に進学したり海外やJのクラブを目指すことも選択肢となる。その選択肢の一つにはふたば未来学園もあり、選手たちの選択肢となる環境であってほしい。効率の良い練習を行い、福島の先生方に良いものを伝えてほしい。
 池内 子どもたちにはいろいろな選択肢があり、その中にはふたば未来学園も当然入ってくる。中学1年から積み上げるコンセプトは、砂金先生とも共有しながら進んでいきたい。サッカーにとっては積み上げが重要だ。

 ―高校サッカーでは尚志が活躍しているが、小中学生の有望な選手が他県に出てしまう課題もある。双葉郡の動きは受け皿拡大にもつながるのではないか。
 橋本 田嶋会長が技術委員長の時、アカデミーが立ち上がるということで富岡高が受け皿になった。良い選手が他県に流出していたが、富岡高に集まって3年後には全国大会に出場した。今はその状況とは変わってきている。私立高が選手を集め、環境を整えて強化を進めている。そのリーダーが尚志だが、ほかの私立高も環境を整えている。ただ、トレセンで頑張っている子が毎年5~6人は他県に行っている。受け皿として県内の高校には頑張ってほしい。今後はふたば未来学園がその一つになるのではないかと思っている。

◆指導者育成

 ―指導者育成も重要だ。目指すべき指導者像は。
 池内 3月に福島に来て、県内のトレセンの研修会に参加させていただいた。質を上げるために熱心に指導しているのが印象的だった。そういった人たちが県内だけでなく、いろいろな情報に触れて自分のチームに還元する仕組みをつくれればさらに良くなると感じた。地区トレセンの指導者や先生方のサポートをどうするかもわれわれの役目。質の向上に向けたサポートをしていきたい。
 砂金 福島に来て3カ月たち、県内の先生とも話をさせていただいた。千葉県では指導者養成の手伝いをしてきた。そういった部分も含め、福島に役立てればいいと思っている。

◆プロチーム

 ―若い人たちがサッカーに情熱を見いだすには県全体の盛り上がりも必要だ。今季は福島ユナイテッドFC(J3)やいわきFC(JFL)のプロチームも好調だ。県内のサッカー熱をどう盛り上げていくか。
 橋本 協会として両チームをサポートしていく。ユナイテッドはかなり来場者も増えている。トップチームが勝ったり、勇気あるプレーが皆さんを感動させてくれる。協会とJリーグはまた別の立場だが、協力して盛り上げたい。

◆今後の展望

 ―東京五輪代表には若い頃から海外に出る選手が多く、女子はアカデミー出身者が代表入りする。浜通りからも世界に羽ばたく選手が出てくることが期待されており、Jヴィレッジやアカデミーなど双葉郡はその軸となる機能を担うのではないか。今後の福島県のサッカーをどう考えるか。
 田嶋 環境を整えてくれている地元の広野町、楢葉町には感謝しており、その恩返しは選手が活躍することが一番だ。現場は池内監督に任せるが、いかに地域の方々と密着し、その文化を知るかも大切だ。一線で活躍するアカデミー出身選手も双葉郡では、地域の人たちと一緒に田植えなどをしていた。親元を離れて生活する中、監督やコーチが親となり、地元の方々が温かく迎えてくれることが選手の人間形成にもつながる。またここで育った選手が、五輪やW杯に出て行くことが地元を勇気づける。(双葉教育構想で育った)アカデミー出身の遠藤純(日テレ東京V、白河市出身)や菅沢優衣香(三菱重工浦和)、バドミントンの桃田賢斗(NTT東日本、富岡高卒)のように、世界で活躍する選手を目指してほしい。
 池内 福島に来て強く感じたことがある。各カテゴリーの指導者が子どもたちのために一生懸命、大会などを運営してくれている。子どもたちの数は残念ながら減っていると聞いているが、女子も含めて楽しそうにサッカーをしている。県内にはこうした土台と素晴らしい環境がある。関係者が頑張る姿は子どもたちも見ている。その力を子どもたち、そして地元に還元しながら良い選手、指導者を育てたい。
 砂金 改めて今の立場でもっと頑張っていかなければと感じた。(ふたば未来学園が)アカデミーの受け皿の選択肢の一つになれるよう魅力あるチームづくりに取り組む。選手には「人に応援されるチーム(選手)になろう」「人に感動させられるサッカーを志そう」と言っている。県内選手がふたば未来学園を目指してもらえるようなチームづくりにじっくりと根を張って取り組みたい。
 橋本 インターハイの来場者を見ると約4万人が訪れる。夏休み前後にいろいろな大会が催され、多くの人が集まるようになればJヴィレッジはより重要な場所になる。協会も連携できるところは連携したい。アカデミーには私も震災前から関わらせてもらい、いろいろな刺激をもらった。JFAアカデミー福島の指導者の協力をいただき、良い指導者をつくって子どもたちを育てていきたい。

◇座談会は新型コロナウイルス対策のためオンラインで実施しました。