息子亡くし心に癒えぬ傷 猪苗代湖ボート事故9月6日で1年

 
事故で亡くなった豊田瑛大君の遺影を見つめる両親。心に癒えぬ傷を負った=千葉県野田市

 会津若松市の猪苗代湖で昨年9月、プレジャーボートに巻き込まれ、千葉県野田市の小学3年、豊田瑛大(えいた)君=当時(8)=が死亡するなどした事故は、6日で発生から1年を迎える。事故で大切な息子を亡くし、母親は両脚を失うなど、心や体に癒えることのない傷を負った両親。今も真相が明らかにならないことに不安を覚えながら、再発防止を強く願っている。

 「家族の一員に瑛大がいないことがつらくて...」。言葉に詰まる瑛大君の父親。常に頭にあるのは、瑛大君のこと。「家族で出掛けることを楽しみにしていて、本当に毎日が楽しかった」。母親も涙をこらえる。

 別れは予期せぬものだった。「きれいな場所で水遊びがしたい」。一家や知人家族の計7人で、初めて訪れた猪苗代湖。水上バイクで引っ張って遊ぶ「トーイングスポーツ」を楽しんでいた。湖面で順番待ちをしていた母親の耳に突然聞こえてきた低いエンジン音。その直後、ボートが母親や瑛大君らに衝突し、走り去っていった。

 湖面で変わり果てた姿の瑛大君。「最後にどうしても抱き締めてあげたい」。そう思ったが、母親はけがを負って動けなかったため抱き締めてあげることができず、救助された後、会津若松市内の病院に入院。両脚を失い、7度の手術を乗り越え、3カ月後に退院してリハビリを続けた。

 事故後、インターネット上には「親が悪い」などの書き込みがあり「いわれなき声」に傷ついた。「(瑛大君を守れなかった)責任を感じ、ごめんねという気持ちでいっぱいなのに...」。母親は声を震わせる。衝突したボートは今も特定されず、事故原因などは解明されていない。「本当に特定されるのか」。両親の不安は日ごとに大きくなっている。再発防止への思いも強く、父親は「再発しないためのルール作りを徹底してもらいたい」と訴える。

 スノーボードが好きで、明るく、優しく面倒見が良かった瑛大君。事故前にはヒマワリを育て、花が咲いた時はすごく喜んだという。「毎朝、仏壇に手を合わせて『おはよう』と声を掛け、思い出話をしながら『また行こうね』って声を掛けています」と父親。両親は思い出の品などが並ぶ自宅の一室で、瑛大君に思いを巡らせる。そこに飾られた明るい色のヒマワリが、瑛大君の人柄を表しているようだった。

 事故後、猪苗代湖では利用区域を示す看板などが設置されるなど、応急的な対策が取られた。だが、根本的な事故防止対策は、はっきりとした方向性が決まっていないのが現状だ。

 猪苗代湖水面利活用基本計画推進協議会の関係者らは事故後、船を誘導するブイを湖に浮かべて航行ルートを示すなど応急的な対策を取った。国の運輸安全委員会が事故原因を調査しているが、いまだ解明されていない。協議会は原因が判明した後に対応を検討するとしている。

 事故現場近くの湊町観光協会(会津若松市)の小林茂政会長(70)は利用者のマナーにも眉をひそめる。「看板やチラシで航行区域を守るように呼び掛けても、ルールを守らない人がいる」という。同協会は利用客にチラシを配り周知を図っているが、ルール違反はなくならないという。

 猪苗代湖ボート事故 2020年9月6日午前11時ごろに会津若松市の猪苗代湖で発生。プレジャーボートに巻き込まれ、千葉県野田市の小学3年、豊田瑛大君=当時(8)=が死亡、2人が重傷を負うなどした。現場では複数のボートが往来していたとみられ、県警は業務上過失致死傷の疑いがあるとみて捜査している。瑛大君の遺族らは事故の経緯などを記載したホームページ(https://team‐eita.com/)を開設。目撃情報の提供を呼び掛けている。