古民家パン店、地域と一緒に 美里に移住2年半の元報道カメラマン

 
築100年超の古民家で地域に支えられながら「いわなみ家」を営む岩波さん

 築100年超の会津美里町の古民家に、焼きたてパンの香りが漂う。2年半前に移住してきた岩波聡子さん(42)が営む「いわなみ家」は、知る人ぞ知る人気のパン店だ。岩波さんは元報道カメラマンという異色の経歴の持ち主で「毎日のように町の温かさを感じている。地域と生きるパン店にしたい」と語り、美里の人情に支えられながら、多くの人に喜ばれるパン作りに汗を流す。

 「おはようございます。いつものパン焼けてますよ」。岩波さんは客に籠を手渡し、一人一人に声を掛ける。いわなみ家が開店するのは、毎週火、日曜日の午前10時30分。古民家の縁側に、食パンやベーグルなどが並ぶ。遠くから足を運ぶファンもいて、早いときには30分もしないうちに完売してしまう。

 岩波さんは福岡県出身で、全国紙のカメラマンとして報道に携わってきた。仕事にやりがいを感じる日々だったが、人と直接関わる仕事がしたいという思いが強まった。「目の前にいる人のおなかを満たして笑顔になってもらいたい」。趣味のパン作りを仕事にしようと、新聞社を退社した。

 その後、同僚カメラマンだった夫の転勤で福島市に引っ越した。ここで転機が訪れる。夫がフリーに転身し「四季が感じられる豊かな自然の中で、伸び伸びと子育てができる場所」を探すことになった。理想の場所を探し回る中、会津美里町にたどり着いた。町から紹介された赤い屋根の古民家を見た時「ときめきを感じた」という。古民家を住宅兼店舗としようと、2019年に移住した。

 岩波さんのパンは、自家製の天然酵母を使う。市販のパンに使われるイースト菌に比べて発酵に3倍以上の時間がかかるが、ふっくら、もっちりした食感になる。19年12月に開店すると、広告を出さないのに行列ができるようになった。聞いてみると「知人にもらっておいしかったから買いに来た」と言われた。「お裾分けの文化が根付く温かい町だと思った」と振り返る。

 会員制交流サイト(SNS)でも評判は広がって店は繁盛したが、駐車場がないため客の路上駐車が悩みとなった。それを知った近隣住民が土地を貸してくれることになった。「困っていることを口にすると、周囲の方たちが助けてくれるんです」。新鶴地区の農家から「熟れすぎた」とブドウを分けてもらい、天然酵母に使ったこともあった。

 「この町でパンを売るのは、本当に幸せな仕事。私も地域の力になれたら」。新型コロナが落ち着いたら、かつて好評だったパン教室を再開する予定だ。(多勢ひかる)

 ▽住所=会津美里町八木沢太子堂東2845
 ▽営業日=毎週火、日曜日の午前10時30分~(売り切れ次第終了)