【東日本台風2年・教訓】死んでからでは遅い

 
「命を落としてからでは遅い」と夏井川の決壊箇所で東日本台風の教訓を語る佐藤さん=いわき市平下平窪

 「多くの人が犠牲になった。『助けて』という声に応えられず自責の念に駆られる住民もいる。だが、あの水の中では動けなかった。だからこそ、少しでも早く避難できる仕組みをつくらなければならない」

 おととし10月の東日本台風(台風19号)で甚大な被害を受けたいわき市平下平窪地区。ことし3月まで区長を務めた佐藤将文(76)は被災した経験を教訓とするため市や県に再発防止策を訴え、行政区では自主防災体制づくりに奔走してきた。

 給水所まで行けない

 10月13日午前1時30分すぎ。地区の様子を確認していた佐藤の目に、夏井川の方から走ってくる住民の姿が見えた。越水を疑い車で現場に向かおうとすると濁流が押し寄せてきた。「堤防が切れた」。水は瞬く間に車のドアの高さに達した。佐藤は死を覚悟した。

 もがきながら近くにある妻の実家に何とかたどり着いたが、水位は下がらず動けるようになったのは午前7時すぎ。地区の役員と協力して情報を集めると被害の状況が明らかになった。地区では4人が犠牲になった。車の水没なども合わせれば全2130世帯が被害を受けた。

 「被災者の支援はどうなるのか」。水道は使えず食料の問題もあった。市から支援に関するメールがきたが、情報が届かない人、徒歩で給水所にたどり着けない人もいる。災害ごみや消毒も課題となった。市から、被災関係の手続きをするため本庁や文化センターに来てほしいと告げられ、思わず声を荒らげた。「移動の足がない」

 佐藤らの求めに応じる形で、市は地区内の小学校に現地対策事務所を設置した。その後、巡回バスが走るようになり、給水所が増設され、仮設入浴所が設けられた。

 要支援者の情報把握

 佐藤は、ほどなく設置された市の災害対応検証委員会でも声を上げた。「緊急速報メールに地域名や水位情報など危機感のある情報が必要だ」「体の不自由な人を助けるために要支援者の情報を開示し、福祉避難所も明確にしてほしい」。犠牲者の多くを高齢者が占め、市からもたらされた情報が不足していたからだった。

 地区として寄せた要望は120に及ぶ。多くは解決に向かっているが、被災による空き家の発生や人口減少などが新たな課題として浮かんだ。

 地区ではことし2月、危険箇所や避難に適した建物を示す防災マップを作製した。民生委員らと協力して要支援者の住居も地図上に落とし込んだ。佐藤は住民全員が防災・減災の共通意識を持つ重要性を訴える。「ハザードマップを見ない人もいる。自宅がどういう状況にあるのか、どう避難するのか知っておく必要がある。命を落としてからでは遅い」(文中敬称略)

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 県内で39人(福島民友新聞社まとめ)が犠牲となった東日本台風が上陸してから12日で2年となる。河川の氾濫で2000人以上が現在も避難生活を続けており、水害の爪痕はいまだに色濃く残る。