【東電旧経営陣強制起訴 迫る控訴審(中)】長期評価、再び焦点

 
東京電力福島第1原発5号機近くで撮影された津波。防波堤を破壊しタンクに迫る様子が確認できる(東京電力提供)

 東京高裁で11月2日に開かれる東京電力旧経営陣3人の控訴審初公判は、一審判決で否定された、政府がまとめた地震の規模や切迫度に関する予測「長期評価」の信頼性が再び大きな争点になる見通しだ。

 業務上過失致死傷罪に問われた勝俣恒久元会長(81)ら旧経営陣3人が無罪となった一審判決は、検察官役の指定弁護士が巨大津波を予測できる根拠とした長期評価の信頼性を否定し、「大津波を具体的に予見し、対策工事が終わるまで運転を停止すべき法律上の義務はなかった」と結論付けた。判決後、指定弁護士は「明らかな事実誤認」と控訴しており、控訴審でも最大の争点になるとみられる。

 業務上過失致死傷罪の成立には、〈1〉危険性を事前に予見できたのか(予見可能性)〈2〉必要な措置を講じれば、結果を避けられたか―の2点が重要だ。一審では長期評価の信頼性を根拠とした巨大津波の予見可能性と、原発事故を回避するための結果回避義務違反について争われた。

 指定弁護士は一審で、旧経営陣の3人が事故前に、最大15.7メートルの津波が来る可能性があるとした長期評価を基にした試算を把握しており、「津波襲来の危険性を知りつつ、何一つ対策をしなかった」と主張。一方、弁護側は長期評価は信頼性が欠け、「大津波は予見できなかった」と反論した。また「仮に試算に基づく対策をしても、実際の津波は全く異なる規模で事故は防げなかった」として3人の無罪を主張した。

 控訴審での判断の行方はどうなるのか。過失犯に詳しい立命館大法科大学院の松宮孝明教授(63)=刑法=は「長期評価の信頼性は大きな争点だが、安全対策をしていれば事故は防げたのか、結果回避義務の部分も重要」とし、長期評価の信頼性に加えて結果回避義務違反を巡る判断の行方にも注目している。

 結果回避義務違反を巡っては、指定弁護士が一審で、建物を浸水から守る「水密化」や非常用電源の高台設置、運転停止など5点を主張したが、判決は「事故を回避するため、原発を停止させなければならないほどの事情はなかった」と退けた。

 松宮教授は控訴審の見通しについて「(指定弁護士は)何をすべき義務があったかだけではなく、それをしていれば事故前に対策が整い、原発事故が防げたという因果関係を主張していくだろう」と予想する。

 その上で、指定弁護士に一審判決を覆すためハードルの高い立証を求められる控訴審について「(指定弁護士は)長期評価の信頼性が低くても、過失が認められるような論理が必要だろう」と指摘した。

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 長期評価 政府の地震調査研究推進本部がまとめたプレート境界の海溝や、活断層などで繰り返し起きると考えられる地震の規模や切迫度に関する予測。切迫度は「30年以内の発生確率」として規模や海域ごとに示すことが多い。2002年7月31日に公表された長期評価は、三陸沖から房総沖にかけて「マグニチュード8.2前後の津波地震が30年以内に20%の確率で起こる」としていた。

一審での主な争点と判決