【東電旧経営陣強制起訴 迫る控訴審(下)】民事裁判と違う立証

 
東京電力旧経営陣への判決公判が開かれた東京地裁の法廷=2019年9月19日(代表撮影)

 東京電力福島第1原発事故を巡る裁判は、民事と刑事で判断が分かれている。民事裁判では、巨大津波の予見性の根拠となる政府の地震予測「長期評価」の信頼性を認め、国や東電に賠償命令を出す判決も出ている。一方、東電の旧経営陣3人が強制起訴された刑事裁判では、長期評価の信頼性が否定されて全員無罪となった。「なぜ、刑事と民事で結論が分かれるのか」。困惑する県民の声も出ており、初公判が11月2日に開かれる控訴審での判断が注目される。

 民事と刑事の違いは、立証の厳格さとされる。被害者を救済する目的もある民事裁判に比べ、刑事裁判は「合理的に疑いのない程度」の高度な立証が求められる。

 その刑事裁判の中でも、検察官が起訴を見送った事件を審理する強制起訴裁判は、さらに立証のハードルが高いとされる。

 強制起訴は、国民感覚を司法に反映させるため約10年前に導入された制度で、強制起訴された事件10件のうち有罪が確定したのは2件にとどまる。兵庫県尼崎市で2005年に起きた尼崎JR脱線事故の強制起訴裁判で、検察官役の指定弁護士を務めた河瀬真弁護士(51)=神戸市=は立証の難しさを語る。

 「(強制起訴裁判は)検察官が持っている資料では立証が不十分ということが前提。証人尋問が重要になり、いかにいろいろな角度から質問し、証言の端々をつないで一定の評価を得るか。通常の刑事裁判とは違っていた」と振り返る。

 強制起訴には司法の場だからこそ明らかとなる「副産物」もある。東電旧経営陣の一審東京地裁では、長期評価に基づく津波予測を巡り、東電内での議論や経緯などが次々と明らかになった。

 河瀬弁護士は「『事件や事故が避けられたのでは』『避けられる方法があったのでは』と刑事司法の場で考えることが大事だ。強制起訴がある意義は大きい」と強調する。

 近づく控訴審の開廷。民事裁判に関わる関係者も、その行方を見守っている。国と東電に損害賠償を求める集団訴訟(生業(なりわい)訴訟)の原告側弁護人の一人、鈴木雅貴弁護士(35)は「民事では企業全体を加害者と捉える一方、刑事では旧経営陣個人に責任があったかを問う違いがある」とした上で「経営者の判断なしに津波対策などは決められない。被告が企業か旧経営陣かは結論に大きな影響を与えるものではない」と話し、控訴審でも長期評価の信頼性を認めた民事裁判と同様の判決を期待した。(この連載は影山琢也、安達加琳が担当しました)

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 強制起訴制度 検察が起訴を見送っても、市民らでつくる検察審査会の議決が2度にわたって起訴するべきだと判断すれば、裁判所が指定した検察官役の弁護士が自動的に起訴する仕組み。国民の司法参加を目指した司法制度改革の柱として、2009年5月に施行された。対象事件はこれまで10件で、被告は14人。このうち有罪判決が出たのは2件2人(いずれも確定)にとどまる。