武黒元副社長は微動だにせず 東電強制起訴控訴審初公判

 

 東京高裁で2日始まった東京電力旧経営陣の強制起訴裁判控訴審では、遺族や県民から新たな証人や証拠に基づくさらなる事実解明を期待する声が上がる。原発事故の責任を問う唯一の刑事裁判。一審判決から約2年の月日を経て、再度の司法判断の方向性が注目される。

 再び始まった裁判で、原発事故の刑事責任は東京電力の旧経営陣3人に認められるのか―。強制起訴裁判で約2年ぶりに法廷に姿を現した武黒一郎(75)、武藤栄(71)の両元副社長。やや白髪が増えた武黒元副社長と、腰をかばうようなぎこちない足取りで高裁に入る武藤元副社長の姿は、一審から時の流れを感じさせた。体調不良を理由に勝俣恒久元会長(81)の姿はなかった。

 「長期評価に基づいた具体的措置を講じようとしなかった」。検察官役の指定弁護士が約30分にわたり、控訴の理由を説明する文書を読み上げる中、武黒元副社長は微動だにせず、正面に置かれたモニターを見つめていた。長期評価が作成された経緯の重要性について指摘されると、瞬きが多くなる様子も見られた。

 対照的に武藤元副社長は手を動かしたり、肩を上げ下げしたりするなど終始落ち着かない様子。額にしわを寄せながら頻繁に資料に目を落とし、メモを取った。

 「原判決に誤りはない。控訴は棄却されるべきだ」。弁護側の主張に移ると、武藤元副社長の姿勢は一変。手を前で組みながら、肩の力を抜いて椅子にもたれ掛かった。武黒元副社長は変わらず、正面だけを見つめ、後方の傍聴席からその心情は読み取れない。

 この日の公判は約1時間で終わり、武藤、武黒両元副社長はそれぞれ一礼したものの、傍聴席に目を向けることはなく法廷を後にした。傍聴席には被害者参加制度を利用した遺族の姿もあり、両元副社長の表情をうかがおうとしたが、視線が交わるようなことはなかった。

 新型コロナウイルスの影響で間引きされた傍聴席が目立ち、出席者は一様にマスク姿で臨んだ。一審判決時から社会情勢が変化しても、事故の責任の所在がどこにあるのか―という遺族の思いは変わらないように見えた。(安達加琳)

一審東京地裁の判決と双方の主張

 傍聴券倍率10倍

 控訴審初公判の2日、東京高裁には傍聴券を求める多くの人が詰め掛け、公判への注目度の高さがうかがえた。同高裁によると、傍聴券30枚に対し313人が列を作り、倍率は約10倍となった。

 傍聴した須賀川市の男性(68)は「時間の経過とともに刻々と変化している福島県の今を見てもらうためにも、裁判官による現場検証を行ってほしい」と期待を込めた。