高まれサッカー熱!「福島対決」感動を 両社長ら新春座談会

 
(写真左)たしま・こうぞう 熊本県出身。日本サッカー協会第14代会長。選手を引退後に協会で年代別代表監督、専務理事、副会長を歴任。現役時代は埼玉・浦和南高、筑波大、古河電工(現J2千葉)でプレー。64歳。(写真中央)すずき・はやと 福島市出身。千葉工大卒。福島東高とFCペラーダ(福島Uの前身)で主将として活躍。2011年、福島Uの運営会社AC福島ユナイテッドを設立、同年6月に社長就任。49歳。(写真右)おおくら・さとし 川崎市出身。早大商学部卒。いわきFCを運営す

 福島民友新聞社が企画した新春座談会で、日本サッカー協会の田嶋幸三会長を交え、AC福島ユナイテッドの鈴木勇人社長といわきスポーツクラブの大倉智社長がサッカーの魅力とともに競技を通した本県復興への思いを語った。

座談会出席者

田嶋幸三氏 日本サッカー協会長
鈴木勇人氏 AC福島ユナイテッド社長
大倉 智氏 いわきスポーツクラブ社長
【司会】中川俊哉 福島民友新聞社社長・編集主幹

 ■昨季の戦い

 中川 J3で戦った福島ユナイテッドFC(以下・福島U)とJ3昇格を決めたいわきFC。それぞれ昨季の戦いぶりを振り返ってほしい。

 鈴木 一時、首位を狙えるところまでいったが、結果は5位だった。過去最高の成績ではあったが、優勝争いをするチームと優勝するチームの違いを感じた。

 中川 福島Uは昨年、J2に昇格するための資格「クラブライセンス」をJリーグに申請した。

 鈴木 運営会社の設立10周年の節目に併せて「J2昇格への変革の年」を目標に掲げた。これまでJ2に昇格したくてもできなかった。選手を含め我慢してきたが、一丸となって上を目指そうとなった。ただ、18歳以下のユースチームの活動実績がなく、交付を受けられなかった。チーム内で新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生するなど、さまざまなことを乗り越え、大きく動いた1年だった。

 中川 いわきFCは日本フットボールリーグ(JFL)優勝を果たした。

 大倉 おととしは勝ち点1差でJ3に昇格できず悔しい思いをした。だから昨年は「(J3に)上がろう」と声を上げた。それが達成できたという点で昨年は意義のある1年だった。想像以上に(サポーターや県民からの)反響もあった。

 中川 田嶋会長から見た両チームの印象は。

 田嶋 福島Uは東日本大震災が起きた後の大変な時期でもJリーグのチームとして戦い抜き、力を付けてきた。いわきFCは東日本大震災で大きな被害を受けたいわき市に誕生し、福島Uが努力する姿を見て、ここまできたと思っている。

 中川 昨季、ポイントとなった試合を挙げてほしい。

 鈴木 新型コロナの感染から選手が復帰した5日後の5月2日に行われたAC長野パルセイロ戦。調整が十分でない厳しい状況でプレーしなければならなかった。選手は足をつりながらも必死にプレーした。歯を食いしばり、意地を見せてくれた。そこからチームは4連勝し、大きな自信につながった。

 大倉 Jヴィレッジスタジアムで昨年2月28日に行われた福島Uとの「東日本大震災メモリアルマッチ 福島ダービー」が印象に残っている。0―1で負けたあの試合が私たちにとって全てだった。福島Uの選手がこの試合にかけた情熱を見せつけられた。

 鈴木 私たちがいわきFCに火を付けたのか。

 大倉 シーズン開始から原点回帰を掲げたが、この試合に負けたことで改めて自分たちの未熟さに気付かされた。リーグ戦の開幕から連勝し、優勝できたのはあの試合があったからだと思う。

 地域も巻き込んで

 ■ダービー

 中川 今季、Jリーグの舞台で「福島ダービー」が実現する。

 大倉 さまざまなことを背負って戦っているので頑張らないといけない。これまで福島Uと対戦した天皇杯決勝には多くの人に来てもらった。負けたくないという意識が地域の人にもあるようで、地域も巻き込んで試合をしたい。

 鈴木 互いに負けたくないという強い思いを持っている。それをJ3の舞台で、ホーム&アウェー方式で開催できる意義は大きい。イタリアのACミランとインテル・ミラノの両チームがホームスタジアムとして使用している「サン・シーロスタジアム」のように大きな会場で福島ダービーを実現できたらと思っている。

 田嶋 世界を見れば英国のマンチェスターやドイツのミュンヘンなどダービーを冠した試合がある。ダービーが行われることが、その都市のサッカーの成熟度を測る基準と言える。福島県の皆さんはホーム&アウェーならではの喜びや悲しみを味わい、楽しんでほしい。

 大倉 福島Uとの関係が決して悪いわけではないが、バチバチと火花を散らすように盛り上げてもらった方が面白いかもしれない。スタジアムに多くの人に来てもらうことで発信もできる。

 ■本拠地整備

 中川 J2に昇格するには基準を満たしたスタジアムを整備する必要もある。スタジアム問題をどう考えているか。

 大倉 J2基準のスタジアムがないから駄目だとは思っていなし、その時々でやれることをやっていくしかない。

 鈴木 J3のチームの中には、将来的に新たなスタジアムを建設するなどの条件を付けた「例外適用申請」でJ2に昇格するところもある。福島Uも昨年、例外適用申請をした。J2に昇格してスタジアムを満員にする状況になれば機運が高まり、スタジアムを増築するなどの動きも出てくるはずだ。例えば収容人数7000人ぐらいのスタジアムを整備して、そこから段階的に大きなスタジアムに改修していくのも方法の一つではないか。

 中川 田嶋会長が考えるスタジアムの在り方は。

 田嶋 昨季、福島UといわきFCともに使用したJヴィレッジスタジアムはJ3の基準。これからスタジアムを整備するのであればJ2に対応した施設にしなければならない。いわき、郡山、福島の各市にスタジアムがあれば、福島県の皆さんがもっと楽しめるようになるはずだ。

 中川 どのようなスタジアムが理想か。

 田嶋 大事なのは見に来た人が快適であること。雨風をしのげ、真冬でも応援できるスタジアムであってほしい。小規模でも防災拠点になったりと、さまざまな役割を持ったスタジアムが理想だ。海外には介護施設や病院を併設したスタジアムもある。これまでにない、みんなが集える「福島モデル」と呼べるスタジアムをつくり上げてほしい。

 中川 スタジアムの整備に向けたハードルがぐっと上がったようですが。

 田嶋 Jリーグが開幕した1993年当時、どの県にも1年中緑の芝生のピッチはなかった。それが今や全国どこでも、冬でも緑色の芝生のピッチが整備されている。基準があればそこを求めて進めていくのが日本人の特長だ。大阪府吹田市には民間からの寄付金で整備された吹田サッカースタジアム(パナソニックスタジアム吹田)がある。広島市ではサッカー以外にも利用できる複合型施設を整備しようとの動きもある。両チームともスタジアムの整備では妥協してほしくない。

 中川 スタジアムの整備や運営ではサポーターの獲得が重要になってくる。

 大倉 地道にやっていくしかないと思っている。ただ、情熱がないと何も動かない。情熱を持って取り組むことで少しずつサポーターが増えていくのだと思う。そのためにギアを一段階上げていきたい。

 鈴木 集客は最大の悩みだ。「初めてサッカーを見る」という人もまだまだいるので福島市を中心とした地域を巻き込み、新たな取り組みを模索していく。

 大倉 われわれにとっての商品は試合。お金を払って試合を見に来てもらっている。試合が面白いかどうかは重要な要素だ。目いっぱいこだわった商品を作らなくてはいけない。

 中川 いわきFCがJ3加入を決めた試合の記事で、読者から「試合が面白かったから見続けたい」との感想が寄せられた。

 田嶋 福島UといわきFCでサポーターを取り合うのではなく、いい意味でのライバル争いを繰り広げてほしい。

 ■若い才能

 中川 若い世代の育成について聞きたい。JFAアカデミー福島の男子がJヴィレッジでの活動を再開した。震災、原発事故で一時途絶えた育成環境が回復しつつある。

 田嶋 震災の起きた2011年3月11日よりも前、福島県は「サッカー王国福島」を宣言していた。Jヴィレッジを核に日本のサッカーを盛り上げていこうとしていた。震災、原発事故でその動きは小さくなったが、Jヴィレッジの再開によりサッカーが、子どもたちが戻ってくる。Jヴィレッジからはトップ選手だけでなく、若い世代や指導者が育っていった。再び世界で活躍する選手が出てくるはずだ。

 中川 24年夏から全国高校総体(インターハイ)の男子サッカーがJヴィレッジを主会場に固定開催されることが決まった。

 田嶋 夏に行われるインターハイでは暑さで倒れる選手もいるため、少しでも暑さを避けようと開催地の選定を進めてきた。全国から高校生が集まり、地元の高校と練習試合をする機会なども出てくるだろう。将来的には高校以外の大会もJヴィレッジで開催したいと考えている。

 中川 インターハイの福島開催を成功させるためには何が必要か。

 田嶋 まずJヴィレッジが大会運営をしっかりできる体制をつくらなければならない。地元の皆さんだけに頼っていては続けられない。全国にJヴィレッジのようなサッカー施設が整備される中、東京から2時間半の距離に、このような素晴らしい場所があることを広めたいと思っている。練習してすぐに宿舎に戻れて、食事もおいしい。東京五輪に出場したオーストラリア男子代表が事前合宿でJヴィレッジを利用した。オーストラリアのサッカー協会から「なぜこのような施設があることを早く教えてくれなかった」と言われた。

 中川 若い選手の育成で両チームの取り組みは。

 大倉 福島県出身の選手が地元でプレーすることは大切でアカデミーの意味もそこにある。ただ、子どもたちを見ると関東圏や関西圏と比べ、運動能力の差が昔より広がったように思える。少子高齢化で地方は子どもの数も少ない。だから県内のサッカー強豪校は県外選手を獲得している。プロ選手輩出は目的ではないが、(選手を成長させるための)投資を考えると、プロの選手を育てなければならない。そのさじ加減が難しい。「オール福島」で若手選手を育成していくのも一つのアイデアだと思う。

 鈴木 大学リーグなどで活躍する本県出身選手が少ない。県全体の選手強化システムにわれわれが関わり、良い人材を生み出さないといけないのではないか。ことしU―18(18歳以下)のユースチームがスタートする。練習会に参加してくれる地元の高校生や大学生も多い。若い選手が経験を積み、次のステップである福島Uに加わってプレーするという形ができつつある。

 中川 地元選手がプレーの幅を広げるために県外に出て行く状況はあるのか。

 大倉 いわき市のサッカーの上手な小学生が鹿島アントラーズ(茨城県)に加入するなど県外に出て行く傾向は続いている。福島県の子どもたちの運動能力が低下しているように感じられる部分もあり、どうやって選手を育てていくかが課題だ。

 鈴木 東日本大震災で被災した子どもが大きくなってきた。大倉社長が言うように運動能力の低下傾向はあるかもしれない。外遊びができなかったりしたので危機回避能力が落ちているように思える。

 県産品広める試み

 ■地域貢献

 中川 両チームとも地域貢献、地域活性の取り組みを活発化している。

 鈴木 サッカーチームながら農業部がある。原発事故による風評被害を払拭(ふっしょく)しようと始まった活動で、県産品をもっと地域に広げたいと思っている。アスパラガスやリンゴを販売しており、EC(電子商取引)サイトでの売れ行きは良い。コメも生産している。農家を継ぎたくないと言っていた子どもが、農業に打ち込んでいる選手の姿を見て「やってみようかな」と言い始めたと聞いた時には、選手の大きな励みになった。

 大倉 福島Uの取り組みはすごいと思う。私たちも風評払拭と復興を意識している。選手は食べることも大切で、当然そこには地域で生産された農作物や水産物がある。本県沖で漁獲される「常磐もの」をどのようにアピールしていくか、という取り組みを始めた。常磐ものを食べて選手が強くなっていくことを発信すれば、風評払拭につながるのではないか。

 ■復興への力

 中川 選手の活躍する姿に復興への希望や勇気を重ねる県民も多い。

 大倉 チームを応援する横断幕に「浜を照らす光であれ」と書かれている。そのように思ってもらえると今までやってきたことが間違ってないんだと実感できる。感じ方は人それぞれだが、スポーツで社会的価値を創造するというクラブが掲げるビジョンに立ってやり続けてきたことで、光を感じてもらえれたら良いと思っている。

 鈴木 社会情勢もあって生活しづらい状況になり、週末をスポーツの時間に充てようという優先順位が下がっている。この状況をどうやって変えていくか。選手は見る人に感動を与えられなければ駄目だ。サッカーを知らない子どもが試合会場に来て「次も来たい。みんなで行こうよ」と言ってもらえるような環境づくりをしていく。それはサッカーに限ったことではなく、スポーツ全体で言えることだ。楽しい週末を感じてもらう空間をつくり上げたい。

 ■今季の構想

 中川 今季のチームの目標や構想を教えてほしい。

 鈴木 今季はJ2から降格する4チームがいるため相当厳しい戦いになるだろう。新監督を迎えるが、今いる選手を育てて成績を上げていきたい。J2のクラブライセンスも取得したい。

 大倉 新監督を迎えた。J2に昇格できるかどうかは問題ではなく、まずは、私たちが目指すフットボールがJリーグで通用するのかどうかを新監督と一緒に確かめたい。

 中川 最後に意気込みを。

 大倉 設立6年でJリーグにたどり着くことができた。J3でもいわきFCらしいフットボール、そしてクラブが目指すスポーツによる人づくり、街づくりをするというビジョンを忘れずに活動していきたい。

 鈴木 震災を乗り越えて10年がたち、次の10年が重要となってくる。脈々と受け継がれる福島の魂の土台づくりに向けた重要な年になる。いわきFCと切磋琢磨(せっさたくま)しながらやっていきたい。

 田嶋 鈴木社長と大倉社長はタイプこそ違うが自らが先頭に立ってチームを引っ張っている。リーダーがこういった姿勢を見せてこそ組織はついてくる。互いに刺激し合いチームが育っていってほしい。日本サッカー協会長として言えば、震災と原発事故により福島県のサッカーは一度歩みが止まってしまったが、福島UがJ3で活躍し、いわきFCがJ3で戦うことになった。高校世代を見れば尚志が全国トップクラスに成長した。JFAアカデミー福島がJヴィレッジに帰還し、インターハイもJヴィレッジで行われる。日本サッカーの発展を語る時、Jヴィレッジ抜きでは考えられない。この歴史を大切にし、つないでいきたい。福島県はもう一度、サッカー王国を宣言し、福島県から日本のサッカーを盛り上げていってほしい。