【新春対談(下)】内堀知事×柳美里さん 福島県民「誇り高い」

 

 福島民友新聞社は新年に当たり、内堀雅雄知事と南相馬市小高区在住の作家柳美里(ゆうみり)さんによる新春対談を企画した。対談した内堀知事と柳さんに共通するのは福島県に移り住んだということ。2人の目に県民は「誇り高い」「静かなプライドを持っている」と映るという。内堀知事と柳さんが福島県の将来を担う子どもたちの頼もしさや文化・芸術の力について語った。【司会 社長・編集主幹 中川俊哉】

 ■「フルハウス」

 ―柳さんが南相馬市小高区で経営する書店「フルハウス」は、地元の中高生が立ち寄る場所となっています。子どもたちと接して感じることは。
 柳美里さん(以下柳) 書店を開くために本を選んだら「みんなライトノベルやコミックが好きだから、こんな堅苦しいラインアップじゃ読まれませんよ」と反対された。それでも私の選書でやりたいと棚に本を並べた。そうすると高校生や中学生が来て、すごく難しい分厚い本を買っていく女の子もいた。本と出合うきっかけをつくれば、難しい本でも読まれるというのが実感です。進路や家庭のことを相談しにくる生徒もいました。一つ問題として感じるのは高校生の時は学校という受け皿があり、いろいろな相談に乗ってもらえるが、卒業して社会人になったらその関係が断ち切られてしまう。だから、卒業した後も子どもたちの心を受け止められる場所をつくれたらいいなと思っています。

 内堀雅雄知事(以下知事) 高校生と接していて感じるのは頼もしさと心強さです。震災、原発事故後の10年で立派に成長しました。高校生は当時7、8歳ぐらい。震災、原発事故の大変さをしっかりと覚えている。そうした若者たちの社会に対する意識の高さが、私の感じる頼もしさです。彼らは「ここで得られた教訓を後世に伝え発展させたい」「災害復興に貢献したい」「栄養教諭として福島の食を世界に広めたい」と目を輝かせながら話してくる。(震災のあった)2011年の出来事が原点にあるから、頑張らなくてはという思いが強い。われわれも現役世代として頑張っているのですが、若者たちに続いてほしいと気負い過ぎるところがある。無理をさせてはいけない。長い人生なので、震災と原発事故だけが起点というのも違う。彼らのひたむきさを見てうれしい部分と、背負わせてしまったらかわいそうだという両面を常々感じています。

  私ぐらいの世代は勉強をするにしても「自分のために、自分のために」と言われてきた。それが浜通りの子どもたちは「他者のために」と。他者から出発して、どこに向かうかということを考えている子も多い。フルハウスの若いスタッフの一人は両手を強く握りしめ「頑張ります」と言ってくる。「もう十分頑張っているから頑張らなくていいよ」と言いながら、2人で川べりを歩いたりしています。ただ、震災10年の節目を前にした昨年2月に起きた福島県沖地震の後、精神的に参ってしまった。19年の東日本台風(台風19号)の被害も大きく、南相馬市小高区で若い市職員が亡くなった。台風後の大雨と地震。さらに新型コロナウイルス禍と続けざまだった。

 ■文化・芸術の力

 ―文化・芸術の力についてどう考えていますか。
  自宅裏の倉庫を劇場兼ミニシアターに改装しようと考えており、近々クラウドファンディングを始めます。コロナ禍で「ソーシャルディスタンス(社会的距離)を保ちましょう」と言われるようになったが、南相馬市小高区は元々、人と人とが親密に付き合っている地縁血縁が濃い地域です。都会とはソーシャルディスタンスの考え方が異なる。新型コロナが収束したときのため、逆風のうちに種をまいた方が良いと考えています。逆風の方が種は飛びます。例えば、映画を見終わった後にみんなが語り合える場所、親密さを育む場所をつくる。被災地、原発周辺地域で求められているのは「密」。親密さです。親密さを感じられるという意味では芸術の果たす役割は大きい。自宅裏の劇場兼ミニシアターを起点に「常磐線舞台芸術祭」を開きたい。

 知事 ソーシャルディスタンスが心の距離になっていて、福島県のような人と人との関わりが密なところでは皮を引き裂くようなつらさがある。その中で文化・スポーツが心の距離を近づける大きな力になっている。それを感じられたのが浪江町に開館した震災遺構「請戸小」です。一般的にオープニングイベントが開催されるのは平日か土曜日ですが、「請戸の田植踊(たうえおどり)」を披露するため、式典は日曜日に行われました。踊り手たちは県内各地で避難生活を送り、地元にほとんどいない。日曜日が本番だと、土曜日に集まって練習し、泊まって翌朝さらに練習して本番に臨める。彼らは伝統文化である「請戸の田植踊」を残したいと取り組んでいる。イベントで披露する機会があると、みんな喜んで参加する。特に若い世代の人が集まる。スポーツの応援もそうです。サッカーのいわきFC、福島ユナイテッドFCの頑張りによりJ3の舞台で「福島ダービー」を楽しめるようになる。そして試合を見た人が勇気づけられる。文化やスポーツは心の距離をつなぐ大事な鍵になります。

 ■福島の県民性

 ―2人とも県外出身です。県民性をどう感じていますか。
  すごく誇り高いと思っています。例えば鮮魚店。刺し身の作り置きをしない。南相馬市に引っ越してきた時に驚いたことですが、夕飯時に近所の人が皿を抱えて並び、その目の前で鮮魚店の人が注文を聞いて魚を切っている。(以前生活していた)神奈川県鎌倉市にも漁港はありましたが、作り置きした刺し身にラップをかけて売っていた。南相馬市には作り置きをしていない鮮魚店がいくつもある。「なぜ、こんなに手間のかかることをやっているの」と聞いたら「顔と顔の付き合いだから裏切れない。確かなものしか出せない」と。これはプライド(誇り)だと思う。たくさんの業種の人が同じようなことを言っています。

 知事 福島県は広い。その中に浜通り、中通り、会津という三つの地域があり、59市町村がある。私が福島県に来た01年は90市町村だった。県土が広くて多様性がある。そして奥深い。59市町村を訪れるたびに「あっ、こんなことがあるんだ。こんな文化があったんだ。こんな人たちがいたんだ」と驚かされる。いろいろな人がいて、いろいろな地域があり、いろいろな文化がある。それを包含しているのが福島県。その中で感じた県民性は柳さんが言ったプライドそのものです。

 知事 県は一つのキーワードとして「ふくしまプライド」という言葉を使っています。原発事故後、福島県の農林水産物は風評の影響を受け続けてきた。乗り越えるには心の支えが必要になる。支えがなくては疲れて折れてしまう。生産者や農業者は自分で作った作物が安全・安心であり、さらに品質が高くおいしい、食べたら笑顔になってもらえるという「ふくしまプライド」を持って仕事をしている。福島県民は穏やかで自慢することを好まない。自慢するのを苦手にしている。だから、福島県に素晴らしいものがたくさんあるのに言わない。この静かなプライドはとてもすてきな県民性です。ただ、知事としては福島県の良さや課題を国内外にどんどん訴えていかなければならない。「知事はうるさくずうずうしい」と言われるかもしれないが、「ふくしまプライド」を発信し続けることが大事だと思っています。穏やかで真面目で粘り強いのはすてきなことです。知事はいい意味で県民性とはちょっと違う形で良さを伝えていかなければならない。

 ■22年はどんな年

 ―知事は22年を「スタートの年」と位置付けました。柳さんはどんな年にしたいですか。
  私は口で説明するよりも先に行動する。書店を開業するとか、劇場を造って演劇をやるとか、映画の上映会を開いてみんなで語り合うとか、一つ一つの行動を積み重ねていくしかないと思っています。もう一つ自分のことで言うと、新型コロナの状況でどうなるか不透明ですが、9月から半年間かけて米国のシカゴ大と一緒に演劇を作る予定です。東京を経由せずに世界レベルの演劇を作り、福島県を発信したいと考えています。演劇をやりたいという人はどうしてもみんな東京を目指します。子どもたちも都会に出て行ってしまいますが、南相馬市でもやれるということを示したい。

 ―2人の気持ちが伝わってくる中身の濃い対談になりました。ありがとうございました。

 うちぼり・まさお 1964(昭和39)年、長野市生まれ。東大経済学部卒。86年、旧自治省(現総務省)に入省。2001年に本県に出向し、生活環境部長、企画調整部長、副知事を歴任。14年の知事選で初当選し、現在2期目。57歳。

 ゆう・みり 1968(昭和43)年、茨城県土浦市生まれ。97年「家族シネマ」で芥川賞、2020年「JR上野駅公園口」で全米図書賞受賞。21年にみんゆう県民大賞を受けた。南相馬市小高区で書店「フルハウス」を営む。53歳