東電旧経営陣強制起訴控訴審が結審 12月にも判決の見通し

 

 東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴され、一審東京地裁で無罪となった勝俣恒久元会長(82)ら東電旧経営陣3人の控訴審第3回公判は6日、東京高裁(細田啓介裁判長)で開かれ、結審した。検察官役の指定弁護士は一審判決の破棄を、3人の弁護側は控訴棄却を求めた。

 被告は勝俣氏のほか武黒一郎元副社長(76)、武藤栄元副社長(71)で、武黒氏のみ出廷した。勝俣氏は公判の3回とも出廷せず、武藤氏はこの日姿を見せなかった。原発への巨大津波の襲来を予見できたかなどが争点で、高裁が改めて刑事責任の有無を判断する。判決公判は早ければ12月にも開かれる見込み。

 弁論で指定弁護士側は、一審で信頼性を否定された国の地震予測「長期評価」を巡り、控訴審で書証として採用され、長期評価の信頼性が認められた民事訴訟の高裁判決から「長期評価に基づけば津波は予見できた」と主張。「一審判決の正当性は根底から覆り、予見可能性や結果回避義務はあった」とした。

 弁護側は「巨大津波の襲来を予見できなかった」などとした一審判決に「誤りがないことは明らか」と主張。書証として採用された別件の民事訴訟の高裁判決については、証人に反対尋問の機会がないことや、判決のみで具体的証拠が不明などとして控訴審で「根拠になり得るものではない」とし、無罪を主張した。

 控訴審では、書証が採用された一方で、指定弁護士が申請した裁判官による現場検証や専門家の証人尋問は採用されなかった。

 3人は第1原発に津波が襲来するのを予見できたのに対策を怠った結果、事故を招き、長時間の避難を余儀なくされた双葉病院(大熊町)の入院患者ら44人を死亡させたなどとして強制起訴された。

 原発現場検証や証人尋問不採用

 【解説】東京電力福島第1原発事故を巡る強制起訴控訴審は、計3回で結審した。約半年後の判決では、一審同様、勝俣元会長ら旧経営陣3人が、大津波の危険性を具体的に予見できたかどうかの判断が最大の焦点となる。

 控訴審では新たな証拠に加え、検察官役の指定弁護士側が求めた裁判官による第1原発の現場検証、国の地震予測「長期評価」の策定に携わった元気象庁幹部らの証人尋問の採否に大きな注目が集まった。東京高裁は指定弁護士側が申請した、長期評価の信頼性を認めた民事訴訟の高裁判決や弁護側の書証を採用した一方、現場検証や証人尋問は不採用とし、指定弁護士側が「禍根を残す」と異議を申し立てる場面もあった。

 細田啓介裁判長は判決日を12月以降に指定した。被害者遺族の弁護人は今月17日の民事訴訟の最高裁判決などを念頭に「民事訴訟の最高裁判決を見た上で判断することは明らか」と分析する。一審判決では長期評価の信頼性を認めず「大津波は予見できなかった」として3人の刑事責任を否定。個人の過失を問う刑事裁判のハードルの高さを改めて示した。控訴審判決では取り調べた新たな証拠に加え、論点が重なる他訴訟の判断も少なからず影響を与えそうだ。(安達加琳)

 識者「半年間、慎重審理か」

 東京電力旧経営陣3人の強制起訴控訴審結審を受け、識者2人が6日、福島民友新聞社の取材に「慎重に審理されるはず」「民事裁判の判決も影響するのでは」との見方を示した。

 兵庫県尼崎市で2005年に起きた尼崎JR脱線事故の強制起訴裁判で、検察官役の指定弁護士を務めた河瀬真弁護士(神戸市)は「判決まで半年間という期日が設けられたということは慎重に判断を下すためかもしれない」と推察。その上で「結果はまだ分からないが、大規模な資料を基に一個一個の論点を論証していくのではないか」と見解を述べた。

 高橋有紀福島大行政政策学類准教授(刑法)は「公判があっさり終わってしまったという印象もあるが、判決までの期間に集団訴訟や株主訴訟がある。直接的な影響はないとは思うが判決を気にするはず」と刑事責任を問う唯一の裁判に民事裁判の判決が影響を与える可能性について言及した。

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 東電旧経営陣を巡る公判 東京電力福島第1原発事故に伴う長期避難で大熊町の双葉病院の患者らが死亡したのは、原発の津波対策を怠ったのが原因として、勝俣恒久元会長ら3人が強制起訴され、刑事責任の有無が問われている。3人を無罪とした一審東京地裁判決は、津波の予見可能性がなかったとは言い難いとしながらも、具体的根拠を伴う認識ではなかったと指摘。「津波の対策工事が終了するまで運転を停止すべきとの法律上の義務はなかった」と判断した。