海洋放出方針、進む準備 第1原発ルポ、処理水の多さ実感

原発事故から11年3カ月が経過した東京電力福島第1原発の構内には、処理水を保管したタンクが林立している。政府は、廃炉に必要な敷地を確保することなどを理由として、処理水を来年春ごろに海洋放出する方針を決めている。地元住民や漁業者の理解が十分に進んでいるとはいえない状況で、原発構内で今、何が行われているのかを取材した。(報道部・小野原裕一、ふたば支社・三沢誠)
記者が原発に入ったのは13日で、まずは1~4号機を一望できる高台に足を運んだ。快晴の空の下で鉄骨が露出した1号機などを目前にし、廃炉までの道のりがはるか遠いことを実感した。廃炉工程の一つの節目となるのが、処理水の海洋放出だ。放出に関連した作業の出発点となる「K4タンク群」に到着した。
海洋放出される処理水はここを通り、一度タンクにためられて、含まれるトリチウムをはじめとした放射性物質の量を計測する。間近で見たタンク群は、見上げないと全体を確認できないほどの大きさだった。「いずれはこのタンク群が満杯になるのか」。そう思うと改めて処理水の量の多さを実感した。
続いて、放出の工程で終盤となる海水で希釈した処理水を海洋放出前にためる「放水立て坑」の建設現場に向かった。立て坑は上流水槽と下流水槽の二つに分かれる。このうち下流水槽は掘削を終えて、深さ約20メートルに及ぶ巨大な穴が開いていた。壁には簡易な土留めを施し、本格工事が始まればコンクリートなどで固められて巨大な水槽になる。
東電の担当者は現場の状況を「放出には地元の同意などが必要になります。今の段階はあくまで環境整備です」と解説した。しかし穴の底には、沖合1キロの放出地点までの地下トンネルを掘るための重機がすでに出番を待っていた。放出に向けた準備だけが、着々と進んでいるように感じた。
距離詰める言葉とは
処理水の海洋放出を巡っては、漁業者を中心に風評被害を懸念する声が上がっている。処理方法については、事故の当事者である東電が、丁寧に説明することで理解を得る必要があるはずだ。東電の担当者は「地元の人たちに納得してもらい、限りなくリスクをゼロにする」と言うが、地元との距離を詰める言葉とは何だろうかと考えてしまった。
視察の最後、ビーカーに入った処理水を手に取った。何の変哲もなさそうな水が、本県の地域社会に大きな波紋を呼ぼうとしている。廃炉作業を「なんだか分からないもの」として遠ざけることなく、一つ一つの意味、そして進展の状況を見続けていくことを誓い、第1原発を後にした。
トリチウム、基準未満に希釈
処理水は、雨水や地下水が溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れることで発生する汚染水を多核種除去設備(ALPS)などに通し、トリチウムを除く放射性物質を取り除いたもの。第1原発構内にタンクで保管されている。
放出に当たってはまず、それぞれのタンクにある処理水を「K4タンク群」と呼ばれる場所に移送し、放射性物質の総量などを計測する。タンクは35基あり、受け入れ、測定・確認、放出の3工程を10基ずつローテーションで割り当てる。
K4タンク群で測定を終えた処理水は、専用ポンプでくみ上げた海水と混ぜ合わせて希釈する。100倍以上に薄めることで、トリチウムの濃度を国の基準を下回る1リットル当たり1500ベクレル未満に下げる。
希釈した処理水は海側の立て坑にため、再度検査する。
問題がなければ、地下トンネルを通じて沖合1キロの地点で海洋放出する。
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