7人の侍さっそうと...復興刻む騎馬行列 野馬追、大熊で12年ぶり

3年ぶりの通常開催となった相双地方の国の重要無形民俗文化財「相馬野馬追」では、東京電力福島第1原発事故で全町避難した大熊町で12年ぶりに騎馬行列が復活した。24日に同町大川原地区で行われた凱旋(がいせん)行列では「どうしても血が騒いでしまった」という思いを胸にした多くの町民が集まり、大熊町騎馬会の7人の侍を迎えた。晴れ渡った大熊の空の下に響く騎馬の足音が、確かな地域再生の歩みを人々の心に刻み込んだ。
大熊では原発事故前、町中心部の下野上地区からの騎馬出陣が夏の風物詩だった。町民らは、標葉郷騎馬会(浪江町、双葉町、大熊町)の一員として南相馬市の雲雀(ひばり)ケ原祭場地に向かい、威風堂々と戻ってくる武者を温かく迎えていた。しかし全町避難はその伝統の中断を余儀なくされた。今回の復活は「再び大熊で野馬追を」との関係者の思いが結実したものだ。
下野上地区は原発事故で帰還困難区域となり、6月30日に一部が復興拠点として避難指示が解除されたばかりのため、行列の場は町復興の前線基地である大川原地区となった。
午後4時から始まった7騎による凱旋行列の先頭を切ったのは、水戸市から駆け付けた吉田昌平さん(46)。神旗争奪戦では見事な馬術で神旗を獲得する武勲を挙げ、行列の復活に花を添えた。
ひときわ注目を集めたのが、最年少の船迫美葵(ふなばひまり)さん(11)。母親の有夏さん(33)は浪江町出身で、神奈川県の自宅から里帰り出産しようと、2011年3月11日夜に浪江に戻る予定だった。しかし震災が発生したため、神奈川で美葵さんを出産した。大熊での騎馬行列復活を聞き、美葵さんに「出てみる?」と尋ねると「やってみたい」と答えがあり、縁あって出陣が決まった。
震災の年に生まれたわが子がたくましくなって騎馬に乗る姿に、有夏さんは「かつての野馬追の思い出が重なり、南相馬で口上を述べる娘を見た時には感動して涙ぐんでしまった」と語った。美葵さんは「みんなが応援してくれたことが心に残った。本当に出て良かったと思う」と小学生らしい笑顔を見せた。
騎馬の姿は、沿道の人の心にかつての大熊の風景をよみがえらせていた。町商工会長の蜂須賀礼子さん(70)は「以前は商工会が騎馬会の事務を担っていた。朝早くから準備してね」と振り返った。長く野馬追を支えていた経験から、大川原の商工会事務所の前に、酷暑の中を歩く馬のための水飲み場を設けた。
約20分の行列の後、大熊町役場前で報告会が開かれ、今年の大熊の野馬追は幕を閉じた。復活に尽力した大熊町騎馬会長の小野田淳さん(47)は「来年は大熊から出陣し、(標葉郷のほかの騎馬と共に)浪江での行事に参加するという震災前の姿に戻したい」と語った。鳴り響くほら貝の音色は、新たな復興の夢につながっていた。(菅野篤司)
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