「現代の名工」福島県から3人 橘さん、小林さん、井上さん

 
(上から)「鎧には魂が入っている。修理して残してあげたい」と思いを語る橘さん、「手書きならではの味がある。伝統と技術を残していきたい」と話す小林さん、「堂宮彫刻の伝統技術や美しさを未来に伝えていきたい」と思いを口にする井上さん

 工業技術や建築、調理など各分野で卓越した技能を持ち、その道の第一人者とされる「現代の名工」に、福島県から甲冑(かっちゅう)師の橘斌(さとし)さん(79)=相馬市、たちばな甲冑工房=と看板制作工の小林聖一さん(70)=喜多方市、コバヤシ、木工、木彫工の井上栄政(しげまさ)さん(76)=本宮市、井上木彫所=の3人が選ばれた。

 厚生労働省が11日、本年度の厚労大臣表彰の受賞者として全国の150人を発表した。県推薦の受賞者は橘さんと小林さん、関係者が推薦する一般推薦で井上さんが選ばれた。表彰式は14日、東京都で行われる。

 現代の名工の選出は1967(昭和42)年度に始まり、今回で56回目。受賞者は本年度を含めて6946人となった。

 鎧の魂残してあげたい

 甲冑師 橘斌(たちばなさとし)さん 79歳

 「鎧(よろい)には魂が入っている。できるだけ、そのままの形で残してあげたい」。相双地方に息づく伝統行事「相馬野馬追」の騎馬武者らの甲冑(かっちゅう)の修理に半世紀余り携わる。鎌倉時代の鎧のかけらを手掛かりにして、赤糸威(あかいとおどし)鎧の復元などにも挑んできた。

 相馬市出身。祖父の代から甲冑を仕事にする家に生まれ、相馬高を経て18歳でこの道に入った。22歳で父薫さんが他界した後は、亡父の交友先などを尋ねて教えを乞い、漆塗りや彫金、なめし革の加工技術を磨いた。

 自らも騎馬武者として野馬追に出陣し、宇多郷騎馬会長も務めた。甲冑を身に着けることで「どうして鎧が、この形になったのか、分かるようになった」と実体験を語る。

 修理は、いにしえの職人と対話するようなものだという。作業に打ち込むうちに「(先人は)このところをうまく作るのに、苦労したはずだ」と気持ちが伝わってくる。製造当時を可能な限り再現したいと、素材選びにもこだわる。

 後進の育成にも注力し、伝統の継承に努める。「私にできるのは(後進に)自分の失敗を伝えることだけ」。80歳を前にしても、仕事に対する謙虚な姿勢、そして静かに秘めた情熱は変わらない。

 手書きの良さ後世に

 看板制作工 小林聖一(こばやしせいいち)さん 70歳

 「53年間で納期を遅らせたことがないことが誇り。取引先と信頼関係を築き、一つ一つの仕事に丁寧に向き合ったことが技術向上につながった」と振り返る。

 喜多方市出身。県立会津高等技術専門校(現県立テクノアカデミー会津)卒。屋外広告の制作に長年携わり、企業のシャッターや自治体の公用車などに名前を書き込んできた。「一人前になるまで6年かかった。『きれいな字で評判だ』と言われたときはうれしかった」と笑顔を見せる。プリントによる看板制作も得意とし斬新で見応えのある手法が高い評価を受けてきた。

 県屋外広告美術業協同組合の技能開発委員長を務め、手書きの魅力や技術の継承に力を入れている。「手書きならではの良さや伝統を後世につないでいきたい」と思いを語る。

 神社仏閣に刻んだ技

 木工、木彫工 井上栄政(いのうえしげまさ)さん 76歳

 「堂宮彫刻の美しさや技術を認めてもらいたい」。その一心で、神社仏閣に彫刻を施す全国でも数少ない職人として、60年以上にわたり日本古来の技術を木に彫り込んできた。

 神奈川県出身。地元の中学を卒業後、就職を志したが、持病の影響で内定を取り消された。悲しみの中、近所の寺院の彫刻に魅了され、江戸時代の代表的な宮彫りを継承する南條兼男さんに15歳で弟子入り。1993(平成5)年、結婚を機に本宮市に移り住んだ。

 堂宮彫刻では珍しいバラなどの花も表現し、芸術価値も高めてきた。「今を表すこと」を意識し、原発事故からの復興を願う作品も手掛ける。伝統技術の継承に向けて職人と保存会を結成し、実演会も開いている。「未来にこの技術を残したい」と思いを新たにする。