区域格差解消せず 中間指針見直し、変容は喪失を大幅に下回る額

 

 文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が20日に取りまとめた原発事故に伴う国の賠償基準「中間指針」の第5次追補では、避難者による集団訴訟の確定判決などを踏まえ、増額する賠償額の目安が算定された。

 居住制限区域と避難指示解除準備区域を対象に認定した「ふるさと変容」による精神的損害の目安額(1人当たり250万円)は、帰還困難区域の「ふるさと喪失」の目安額(1人当たり700万円)を基準として計算された。「変容」による精神的損害は、「喪失」の半分を下回る額が妥当と判断した。

 緊急時避難準備区域は、事故発生から約6カ月後に区域が解除されたことなどを踏まえ、さらに小さい額となった。

 浜通りや県北、県中の23市町村が該当する自主的避難等対象区域への賠償は、対象期間を約8カ月延長して2011年末までとした。当時の避難の有無で目安額に差をつけなかった。

 自主的避難区域の目安額(子ども・妊婦を除き1人当たり20万円)は、確定した判決で子ども・妊婦の目安額(1人当たり40万円)が示されたことから、その3分の1~2分の1の損害額とした。すでに支払われている8万円は控除される。

 事故当時、第1原発20キロ圏内に住んでいた人を対象に追加したのは「過酷な避難状況」による精神的損害で、目安額は1人当たり30万円とした。この項目については、確定判決でも認定額にばらつきがあるため、各判決とのバランスを考慮して設定した。

 このほかに、避難指示の対象となり避難した人のうち、要介護状態にあった人らへの慰謝料を増額する。通常の避難者よりも精神的苦痛が大きいと認めたためで、要介護状態の人と身体・精神障害がある人、それらの介護者は、月額3万円を増額した。乳幼児の世話をしていたり、妊娠していたりした人も増額対象とした。

 原賠審会長「目的達成」

 原賠審の内田貴会長は20日、原発事故に伴う賠償対象を拡充した「第5次追補」について「被害者に寄り添い賠償基準をつくる観点から、それなりの目的を達成できた」との見解を示した。一方、指針が前回見直された2013年12月から約9年が経過したことについては「遅すぎるという批判は承知している。重く受け止める」と述べた。

 原賠審は、今年3月に避難者らの集団訴訟判決で中間指針を上回る賠償命令が相次いだことを受け、指針の見直しに向けた議論を重ねてきた。被災地からは従来の指針の内容が被害の実態に見合っていないとしてより早急な見直しを求める声も上がったが、内田会長は「判決が確定する前に(指針を)見直せば、既に行われた賠償との関係で不公平が生じる恐れがある」と釈明した。第5次追補に基づく東電の支払い手続きについては「(今後の原賠審で)東電にも出席を求め、賠償が進んでいるかどうかを評価していく」と述べた。

 原告ら評価と苦言

 原発事故の避難者らによる集団訴訟の原告らは、中間指針の見直しに一定の評価をしながらも、見直しまで9年を要したことに「早期救済が図られていない」と憤った。

 福島(生業(なりわい))訴訟の原告団長、中島孝さん(66)は「めげずに闘いを続けてきた成果が表れた」と受け止めた。福島訴訟の第1陣は見直し前に中間指針を上回る賠償額が確定。判決の後追いとなる形で賠償基準が見直される形となった。中島さんは「速やかな救済を責務とする原賠審の位置付けからは対応が遅い」と指摘し「賠償の差や区域の問題など課題が解決されていない部分もある」と懸念を示した。

 浪江町の住民が国と東電に賠償を求めている集団訴訟の原告団長、鈴木正一さん(72)は「全体的に評価に値するか疑問が残る。賠償対象や賠償額などを含め、指針の内容が実態に見合っていない」と疑問視した。現在も福島地裁で係争中だが、鈴木さんは「自分たちにとって追い風にもならないのではないか」と話した。

 避難者が東電や国などを相手に損害賠償を求めている集団訴訟は全国で約30件あり、先行する7件で中間指針を上回る賠償を命じる判決が確定したことを受け、原賠審が中間指針の見直しの検討を進めてきた。