処理水風評、東電が賠償基準公表 市場、宿泊統計で把握

 

 東京電力は23日、福島第1原発の処理水海洋放出で風評被害が出た場合の賠償基準を公表した。漁業・農業は東京都中央卸売市場の「市場統計情報(月報・年報)」、観光業は観光庁の「宿泊旅行統計調査」を基に被害の有無を確認する。放出により海外で禁輸措置や買い控えが発生した場合も取引状況を確認した上で適切に賠償するとした。

 23日に福島市で開かれた県原子力損害対策協議会で説明した。賠償の対象は全業種共通で、処理水放出前から事業を営んでいる事業者。取引先が風評被害を受けたことで損害を被った事業者も対象とする。放出後に新規で事業を興した人は原則対象外となるが、東電は「個別事情で相談に応じる」としている。

 水産加工や卸業を含めた漁業と農業については、消費者が放出によって敬遠している品目などの状況を把握するため、消費地市場のデータを用いる。観光業については、観光地の状況を確認するため、観光目的の宿泊者数のデータを参照する。これらの事業者はデータ上の数値からどれだけ売り上げが減少したかなどを調べ、賠償額を算定。ほかの業種については業界団体と個別に協議する。

 賠償対象となる損害は、水産物や農産物の価格が下落したことによる売り上げ減少や、風評被害により負担を余儀なくされた追加費用など。水産加工業、水産卸業については、風評被害を受けた魚を扱っているかや生産者の所在地など、どれだけ放出の影響があったかを調べて損害額を出す。

 輸出に関する風評被害は外国政府の禁輸指示があった場合、国内外の取引状況などを確認。被害を認定すれば事業者ごとの実情を踏まえ損害額を算定する。禁輸指示がない場合も、事業者ごとに輸入拒否などの被害がないかを調べる。

 東電は、海洋放出から期間が過ぎた後、風評被害の発生状況を検証し、風評の確認方法や賠償額の算定方法などを適宜見直すとした。今後、受け付け開始時期を公表する。東電は「期間、地域、業種を限定せずに賠償し、時効で請求を断ることをせず、最後の一人まで賠償する」とした。

 問い合わせは東電の専用ダイヤル(フリーダイヤル0120・429・250)へ。

 賠償格差と範囲不安視

 県原子力損害対策協議会が23日に福島市で開いた会合では、出席者から福島第1原発の処理水放出により風評被害が起きた場合の東電の賠償基準について、格差への懸念や賠償範囲が限定されないかを不安視する声が挙がった。

 協議会に出席した管野啓二JA福島五連会長は、これまでの賠償と裁判で認められた賠償額に差があるとし「格差があってはならない」と東電に注文した。また県商工会議所連合会の安達和久常任幹事は観光業への賠償基準について「対象が観光客だけと見える」とし、ビジネス目的の観光の減少も賠償対象とすることを求めた。東電は「出張の機会が減る状況が起きればしっかり賠償する」とした。

 東電の賠償基準では、放出後に新規で事業を興した人は賠償対象にはならない。このため出席者からは、新規事業者が避難指示が出ていた地域に進出できなくなる懸念があるとし「新しい事業者が対象にならないのは不公平だ」との指摘もあった。東電は「新規事業者を対象としないのは原則的な考え方。事業者の事情を確認する中で検討していきたい」と応じた。このほか、風評被害を受けた事業者が、賠償金を受け取る前に事業を縮小、廃業した際の従業員への手当についての要望もあった。

 県漁連会長「反対立場変わらず」

 協議会を欠席した県漁連の野崎哲会長はいわき市で報道陣の取材に応じ、「(海洋放出を)実施する側が実施する責任であらゆる予防策を張るのは当然だ。風評被害が発生しないことをまず希望している」と述べた。賠償基準の内容については「内容を聞くが、反対の立ち位置は変わらない」と強調した。