「政府目標」来春に迫る...処理水海洋放出、理解醸成へ正念場

東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出方針を巡り、政府が放出の目標とする来春が迫ってきた。東電は今夏、原子力規制委員会の認可や県などの了解を踏まえて放出設備の建設に着手。今月には放出により風評被害が生じた場合の事業者に対する賠償基準の骨格も示した。実務面で着々と準備が進む中、放出に強く反対する全国の漁業者らの理解が得られたとは言い難い状況で、放出開始に必要とされる「国内外の理解」の醸成に向け、政府と東電は正念場を迎えている。(報道部・鹿岡将司)
風評懸念拭えず
「そもそも賠償が必要な事態にならないように風評対策を万全に講じることを大前提として求める」。26日、東電の賠償基準が公表されてから初めてとなる定例記者会見に臨んだ内堀雅雄知事は、政府と東電にこう注文した。漁業者らが反対を続ける背景には、処理水放出による新たな風評が生まれることに対する強い懸念がある。
東電が示した賠償基準では、漁業、水産加工業、水産卸売業、農業、観光業の5分野で、統計データを用いて風評の有無を確認するなどの手法を取る。ほかの業種については個別に対応するとしており、23日の説明会では、出席者が賠償の範囲が限定されないよう、きめ細かな賠償を求める意見が上がった。野崎哲県漁連会長は説明会を欠席、賠償基準の内容については「内容は聞くが、反対の立ち位置は変わらない」とし、主張はこれまでと同様であることを強調した。
実務は準備着々
東電は8月、県や第1原発が立地する大熊、双葉両町の了解を得て処理水を沖合約1キロで放出するための海底トンネルの掘削など、放出に必要な設備の本格的な工事に着手した。海象状況の影響を受けやすい作業のため、来春までの工事完了は厳しいとの指摘もあるが、東電は「放出を来春に開始するとの目標は変わらない」とする。
放出する際の基準も固まってきた。東電は放出前の処理水について、放射性物質濃度が放出基準を満たしているかどうかの評価に用いる核種を30種類とする計画を発表。その後、核種の一部を変更し、29種類とする方向で規制委の審査が進んでいる。
見えにくい進展
福島第1原発1号機の原子炉格納容器の内部調査で、原子炉圧力容器下部の土台付近に、溶融核燃料(デブリ)の可能性がある堆積物が確認された。今後のデブリ取り出しに向けた重要な手がかりになるとみられる。廃炉作業は一進一退を繰り広げながらも少しずつ進展を見せ始めている。
一方で処理水放出に対する国内外の理解については進展の状況が見えにくい。設備設置を了解した県や立地町も、放出そのものについては「理解が得られていない」とくぎを刺す。西村康稔経済産業相は就任後初めての野崎会長との会談で「関係者の理解なしには処分しないという方針で臨む」と明言したが、何をもって「理解を得た」とするのかが見えない。
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