福島県内経済展望、3氏に聞く

 
(左から)清水茂氏、渡辺博美氏、渡辺正彦氏

 2022年の福島県内経済は目まぐるしく変化する社会情勢の中で緩やかに持ち直した。新型コロナウイルスの行動制限が3年ぶりに緩和され、感染症対策と経済活動を両立する動きが広がった。一方、2月にロシアのウクライナ侵攻が勃発。日本と欧米の金利差を背景に円安も進み、急激に物価が高騰した。事業者は変化への対応を迫られている。23年はどのような1年になるか。日銀の清水茂福島支店長、県商工会議所連合会の渡辺博美会長(福島商議所会頭)、県中小企業診断協会の渡辺正彦会長の3人に聞いた。(聞き手 報道部長・中田和宏)

 日銀福島支店長・清水茂氏 地域金融「つなぐ」成果を

 ―昨年の県内経済を総括してほしい。
 「逆風の中で健闘した1年といえる。(原油市況などの)国際商品市況が高騰し、為替市場では一時1ドル=150円台まで円安が進んだことで、事業者は仕入れ価格の上昇に苦しんだ。それでも県内経済は緩やかな回復を遂げ、12月の県内企業短期経済観測調査(短観)は全産業でプラス1となり、2019年12月以来3年ぶりのプラスに転じた。調査対象の企業の売上高と経常利益は本年度、製造業と非製造業でいずれも増収増益の計画だ。新型コロナウイルス対策と経済を両立する方向にかじが切られ、半導体不足など供給制約の影響も和らいできた」

 ―実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済が夏ごろから本格化する。先行きについては。
 「企業の倒産件数は少ないが、緩やかに増えているように見えるのが気がかりだ。金融機関が取引先の本業支援に力を入れており、今年はさらにスピード感を持った対応が求められる。融資を受けた事業者は〈1〉すぐに返済できる〈2〉原材料高などに伴い運転資金として取り崩している〈3〉本業自体が厳しくなっている―の三つに分類できる。〈2〉は継続的な資金繰り支援、〈3〉には経営改善や業態転換などのさまざまなメニューが必要だ」

 ―事業者を支援する県内の地域金融機関の役割が高まっている。
 「期待しているのは『つなぐ』こと。具体的には事業承継や企業の合併・買収(M&A)、事業転換、販路開拓などの支援だ。県内には3銀行、8信用金庫、4信用組合があり、他県と比べて金融機関が多い。それぞれのエリアで深い情報を持ち、互いに競争しているが、時代や取引先のニーズに合った取り組みとして協業する部分も増えている。ビジネスマッチングなど今後の成果に注目したい」

 ―今年の県内経済の展望は。
 「ウィズコロナから一歩抜け出し、人口減少という長期的な課題や国際情勢の変化などに対応できる年になるとみている。J2に昇格したいわきFCやJ3の福島ユナイテッドFCはそれぞれ仙台、秋田、山形、八戸、盛岡との『東北ダービー』がある。多くのサポーターが県内を訪れ、交流人口の拡大や地域経済の活性化につながることを期待する」

 県商議所連合会長・渡辺博美氏 困難進む挑戦支えたい

 ―昨年の県内経済について。
 「新型コロナウイルスの感染が始まってから3年近くが経過しても、幅広い業種が影響を受けている。さらに物価高騰にも翻弄(ほんろう)された。資材や食料品の価格、電気料金などの上昇が現在も続いている。値上げに踏み切れない場合は利益が出ない構造になってしまう。円安が進み、輸出と輸入で明暗が分かれた1年でもあった」

 ―県内10商議所が昨年11月から新体制をスタートさせた。任期中の3年間で取り組むことは。
 「ここ3年間はコロナ禍で思うような活動ができず、やり残したことが多い。計画を練り直し、新たなチャレンジをしたい。白河、須賀川、二本松の3商議所は会頭が代わり、一段と活発になることを期待している。福島商議所は東邦銀行の須藤英穂専務に副会頭に就任してもらった。経済団体とさまざまな情報を持つ金融機関が一体になって課題解決を図る。本県全体の課題は人口がピーク時と比べて約30万人も減少していることだ。特に女性の県外流出が深刻化している。女性にとって魅力のある職場づくりを企業が責任を持って進めなければならない」

 ―岸田政権は積極的な賃上げを求めている。中小企業の状況は。
 「大企業には内部留保があるかもしれないが、多くの中小企業は資金繰りに余裕がなく、賃上げは簡単なことではない。経営者には事業を継続させる責任があり、赤字では困る。その中で最低賃金が大幅に上がり、働き方改革も迫られている。ここに来て原材料価格の高騰が中小企業の収益を圧迫し防衛費の増額を法人税などの増税で確保する方針も出された。経営が厳しくなっているのが実態だ。とはいっても、賃上げができなければ、良い人材は去ってしまう。経営者は課題を克服するための方策を考えている」

 ―今年の県内経済については。
 「経済に関する予測はなかなか当たらない。おととしは新型コロナの感染拡大、昨年はロシアのウクライナ侵攻など突発的な出来事があった。『去年よりも今年』と着実に前に進んでいくことが重要だ。多くの人に笑顔があふれ、事業承継や創業、新しいチャレンジなど理想を実現できる1年になってほしい。われわれ経済団体としてもサポートに力を惜しまない」

 県中小企業診断協会長・渡辺正彦氏 DX基軸、新産業に期待

 ―昨年の県内経済の印象は。
 「世界的な経営環境の激変期にあり、県内経済は大波にのみ込まれた。新型コロナウイルスの影響に加え、原材料価格の高騰で相当なダメージを受けている。倒産が少ないのは実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)など未曽有の規模で行われた支援策の効果が大きい。ただ、かつてない借入金の増加も招いており、返済の原資を見いだせない事業者が多い。経営面では目先の収益の確保だけではなく、中長期的な視点を持ったビジネスモデルの刷新や業種・業態の転換などが求められる」

 ―事業承継や企業の合併・買収(M&A)の現状や課題は。
 「数年後に経営者の3分の2が70歳以上になるとされ、高齢化や後継者不足を背景に重要性が高まっている。自社やグループ内で事業を完結できる体制づくりや新たな事業領域の開拓などの経営戦略が大切だ。地域内で経営力のある企業に事業を集中させることも選択肢になる。地域金融機関の役割も大きい。取引先の経営の根幹に関わる事業承継やM&Aを首都圏の大手に頼るだけの『手数料ビジネス』にするのではなく、自らノウハウの蓄積や人材育成を図り、同じ目線から支援してほしい」

 ―消費税の税率や額を正確に伝える請求書「インボイス(適格請求書)」が10月に導入される。
 「特に大きな影響を受けるのは年間売上高が1千万円以下の個人事業主やフリーランスなどの免税事業者。インボイスを発行するには課税事業者として登録しなければならない。免税事業者のままでは取引先が消費税の仕入れ税額控除を受けられなくなるため、取引が解消されるリスクがある。2019年10月に消費税率が通常の10%と軽減税率の8%に分かれた時点で制度の導入が決まっていたとはいえ、新型コロナや物価高などで厳しい時期の制度開始になる」

 ―今年の県内経済の見通しは。
 「『前進』と『後退』の両面が見える年になりそうだ。DX(デジタル技術による事業変革)を基軸とした新たな産業を担う企業が県内に誕生することを期待する。一方、産業構造が再構築されており、大手企業がサプライチェーン(供給網)の関係で本県から撤退する懸念も拭えない。変化の兆候を見逃さないことが大切だ」