復興拠点外に「特定帰還居住区域」新設へ

政府は7日、東京電力福島第1原発事故による帰還困難区域の再生を巡り、避難指示解除の対象に「特定帰還居住区域」の新設を盛り込んだ福島復興再生特別措置法の改正案を閣議決定した。先行的に除染している「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)以外の地域に新たな区域を設けて国が除染し、再び住民が住めるようにする。
政府は近く改正案を開会中の通常国会に提出し、早期成立を目指す。改正案によると、帰還を希望する住民の宅地や復興拠点と結ぶ周辺道路、集会所、墓地など日常生活に必要な範囲を国費で除染する。道路など公共施設のインフラ整備も国が代行できる。
帰還困難区域のある7市町村が住民の意向を確認して特定帰還居住区域の範囲などを盛り込んだ計画を作成し、国が認定する。すぐには帰還を判断できない住民もいるため、意向確認は繰り返し実施する。国は初回以降に帰還する意向を示した住民の宅地などについても追加で特定帰還居住区域に含める方針。
拠点外の住民の多くは避難先に生活基盤があるため、国は避難指示解除後も当面避難先と拠点外での二地域居住を認めるとしている。
渡辺博道復興相は7日の閣議後記者会見で「(改正案の)早期成立を図り、帰還意向のある住民全員の一日も早い帰還を目指して全力で取り組む」と述べた。
「復興拠点との違いは」異なる方向性、住民疑問
既存の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の追加認定や範囲の拡大ではなく、なぜ時間がかかる法改正を経て「特定帰還居住区域」を新たに設けようとするのか―。政府が7日に閣議決定した福島復興再生特別措置法の改正案を巡り、被災地の住民からは疑問の声が上がった。
復興庁によると、復興拠点と特定帰還居住区域ではいずれも国による宅地の除染や、道路を含むインフラ整備を代行するなど、まずは住民が再び暮らせるよう基礎的な生活環境を整える仕組みはほぼ同じ。ただ、本格的な地域再生に向けた方向性が異なる。
復興拠点について、国は「地域経済再建の拠点」の構築に向けた取り組みを重視。拠点内を広範囲に除染し、商業施設や医療機関、公営住宅の整備など、住民の帰還に加え、移住の促進や産業の集積にも結び付くよう利便性を高めた新しい市街地を形成する計画だ。
一方、拠点外に今後設定される特定帰還居住区域では、帰還を望む住民の宅地や周辺の道路、集会所など日常生活に必要な範囲のみで除染が行われる。復興拠点での国の対応と比べ、生活環境の利便性を高めるための支援なども限定的になる見通し。双葉郡の住民は「面的な再生が必要となる復興拠点をさらに拡大するよりも、小規模な除染で済む区域を新設することで国費負担を抑える狙いがあるのではないか」と勘繰った。
復興庁の幹部は7日、特措法改正案の閣議決定を受けた記者説明会で「『自宅に帰りたい』という声に対し、何ができるかを考えたのが(特定帰還居住区域の新設に向けた)出発点」と語り、拠点外の住民の早期帰還の実現に主眼を置いたと強調した。その上で「地域経済の再建や移住者に住んでもらうための計画を進める復興拠点とは毛色が異なり、別の区域制度を作ることが適切だ」とも説明した。
報道陣から「国費負担を抑える狙いがあるのでは」との質問が飛んだが、幹部は「除染して避難指示の解除を目指すことに変わりはない。政府としても帰還困難区域全域の避難指示解除を目指すと申し上げている」と述べるにとどめた。