53歳被告、何も語らず 三春殺人ひき逃げ、傍聴席見ることなく

 
一審の死刑判決を破棄、無期懲役が言い渡された法廷=16日、仙台高裁(代表撮影)

 三春町で起きた殺人ひき逃げ事件の控訴審判決で、一審の死刑判決を破棄し、無期懲役が言い渡された盛藤(もりとう)吉高被告(53)。「長く刑務所に入りたい」という身勝手な理由で無差別に男女2人の命を奪った被告はこの日の法廷で一切言葉を発さず、裁判長の言葉にうなずくだけだった。

 「被告人を無期懲役に処する」。深沢茂之裁判長の発する言葉が静まり返った法廷に響いた。盛藤被告は、主文の言い渡しから判決の読み上げまで約30分、背中を丸めたままうつむき加減で微動だにしなかった。入廷時もうつむき加減で傍聴席には目を向けず、マスク姿のため表情はうかがうことができなかった。

 一審の裁判員裁判で求刑通り死刑判決が言い渡されてから約1年8カ月。一審判決を破棄する無期懲役の言い渡しにも変わった様子は見せず、ただじっとその身を被告人席のいすに預けていた。

 判決文を読み上げた裁判長は、被害者2人の尊い命を奪った紛れもない事実と、無期懲役という刑の重さに改めて責任を感じるよう説諭した。そして最後に「冥福を祈り続けてください」と語りかけた。盛藤被告は何度かうなずいたが声を発することなく、法廷を後にした。最後までその心の内を垣間見ることはできなかった。

 量刑不当認められた 弁護側、死刑回避は納得

 判決言い渡し後、報道陣の取材に応じた弁護人の小野純一郎弁護士は「無罪を取ったわけではないので手放しに喜べないが、控訴審で争った中で、量刑不当の主張のみが認められた。死刑を回避した点については納得している」と述べた。

 「納得できる理由が必要」 近大・辻本教授

 犯罪捜査や刑事裁判に詳しい近畿大法学部の辻本典央教授(55)=刑法=は2人が亡くなる場合でも死刑を回避するケースはあるとし「過去の判例に照らしても無期懲役の選択はあり得る判断」とする一方、「一審の判断が不合理という説明が十分にできているのか疑問だ」と指摘した。

 控訴審判決では無期懲役を判断する上で「生命軽視の度合いは甚だしいと言えるものの、それ以上に顕著であったとまでは言い難い」と強調した。辻本教授は死刑を回避した理由として「生命軽視の度合いが一審よりも少し和らいだ」と分析。ただ「『顕著か』という基準を上乗せし、達していないから不合理とするのは結論ありきとも感じる」との見解を示した。一審の裁判員裁判の死刑判決から減刑された今回の判断について「裁判員制度の意味が軽減されるのではないか」とした上で「一審判決を破棄する以上、一審を否定して納得できる十分な判決理由が必要だった」と述べた。