「山岳遭難」VRで体験 会津大生開発「準備の大切さ感じて」

山岳遭難の危険性を自宅で体験―。会津大3年の渡辺雄大さん(21)らのチームは仮想現実(VR)を使った遭難体験システムを開発した。VRの映像に加え、さまざまな装置を身に着けることで登山時の疲労や体温低下などを体感できる。渡辺さんは「登山前に疑似体験することで遭難防止につながれば」と思いを語る。
渡辺さんらメンバー8人は同大のVRサークルやロボットサークルに所属している。コンテスト出品作品として「全身で体験できるものを」と考え、テーマに選んだのが遭難の体験だった。遭難について調べると、全国的に遭難者数が増加傾向にあり、その理由も安易な登山計画や体力を過信したことが多いと分かった。「ゲームのように楽しみながら体験することで危険や恐怖を学べれば」。そんな思いで開発に当たった。
システムは、体験者が軽装で登山に向かった設定とした。地図とライト代わりに使っていたスマホをなくすところから始まり、日没後の暗闇の中、落石や濃霧、野生動物との遭遇などの危険を回避しながらゴール地点の山小屋を目指す。
VRゴーグルのほか、疲労を体感するために時間がたつにつれて水がたまっていくリュック型のタンクを装着する。首に着ける冷却装置や手首の振動モーターで低体温症も再現。操作は簡単で足踏みをして移動し、両手のコントローラーで物をつかんだり道具を使ったりする。疲労度は時間の経過とともに増え、最高値になるとゲームオーバーとなる。
山登り経験がほとんどない渡辺さんらは、登山の状況をVR上で再現するために福島市の一切経山にも登った。ごつごつした登山道や霧、強風など、"苦しんだ登山の経験"を生かし映像や音響にこだわった。渡辺さんは「登山する際の準備の大切さを肌で感じ、実際の環境に近づけることができたのではないか」と振り返る。
渡辺さんらは試行錯誤を重ねて4カ月ほどで完成させた。昨年、東京都内で開かれた日本バーチャルリアリティ学会主催のコンテストでは審査委員会特別賞を受賞。会場で体験した来場者からは「本当に遭難したようだ」「疲れや寒さを実感できるのがすごい」との声が寄せられ、手応えを感じたという。
VRはコンテスト出場で一区切りとしたが、「登山初心者向けの講習会などで使ってもらえれば努力が報われる」と渡辺さん。「要望があれば、さらに改良を加え実装化につなげられれば」と続けた。