【処理水の波紋・理解の深度】「安全の担保」...大前提になる

「(処理水の海洋放出は)既に決まっているものだと考えている。自分たちは鮮度の良い商品を送り続けるしかない」。東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出方針を巡り、いわき市の水産加工業「上野台豊商店」の上野台優社長(47)は、廃炉を進めるために受け入れざるを得ない段階と捉える。
同社は東日本大震災後、鮮魚の卸売りから加工品販売に主力事業を変更、いわき沖で漁獲される魚介類のブランド化に取り組んできた。処理水の海洋放出に伴う市場や消費者の反応が予想できないだけに、上野台社長は「水産業者は薄い氷の上で商売を続けてきた。(処理水の)安全性が示されても放出後にどんな影響が出るのか」と危惧する。
再生に影落とす風評
そこには水産業の再生に風評が影を落としてきた"歴史"がある。第1原発でトラブルが起きたり、魚から基準値を超える放射性セシウムが検出されたりするたびに、売れなくなる状況が繰り返されてきた。
現在は落ち着いているものの、処理水の海洋放出で安定が崩れかねない。上野台社長は「『福島産は食べない』という人はどうしてもいる」と残念がる一方で「『福島産を食べてもいい』という人は確実に増えている。そうした人を不安にさせないことが鍵だ」と、安全の担保が大前提になると強調した。
政府と東電は海洋放出を見据え、第1原発周辺の海域でモニタリング(監視)を強化。処理水に含まれるトリチウムや、他の放射性物質濃度を測る頻度を増やし、第三者機関を交えた透明性の確保と情報発信に力を入れる方針だ。政府関係者は、東電で不祥事が相次いだことを念頭に「信頼を得るには政府は当然だが、まず東電が実務をしっかりしなければならない」と話す。
ブランド化、後押しを
政府が2021年4月に海洋放出方針を決定後、上野台社長は首都圏などで開かれた県産水産物の販売イベントに参加し、販路開拓に努めてきた。経済産業省のマッチング支援も受け、神戸市を中心に関西で30店舗以上を展開するスーパーに昨秋から、水産加工品を出荷している。
上野台社長は「ハンディのある福島の魚でも(味や鮮度などの)強みを生かしてブランド化できれば産地間競争で勝負になるはず。広い層にアピールする機会を増やし(処理水の)影響を少なくすることが必要だ」と語り、県産水産物のブランド化を政府が一層後押しするよう提案した。