甲状腺がん「肥満関連」 福島医大国際シンポ、米研究成果を報告

福島医大放射線医学県民健康管理センターは4日、福島市で国際シンポジウムを開き、東京電力福島第1原発事故後の県民健康調査の成果について同大の専門家らが発表した。甲状腺がんの発見率と放射線被ばくとの関連性については現時点で有意な関係が明らかになっていないことや、甲状腺がん発症の要因の一つに肥満が関連していることなどが報告された。
米国立がん研究所のキャリー・M・キタハラ上級研究員は1970年代以降、甲状腺がんの罹患(りかん)率は世界の大部分で大幅に上昇しており、背景には診断精度の向上があると説明。米国などでの研究から甲状腺がん発症の要因に肥満度が関係しているとし、「生物学的なさまざまな要因が考えられる」と語った。キタハラ氏は「福島第1原発事故における線量は低く、健康影響を引き起こすとは考えにくい」とも述べた。
また、福島医大医学部臨床検査医学講座の志村浩己主任教授は、甲状腺がんの発見は年齢が上昇するほど女性の割合が増加すると指摘。肥満との関連については「全世界的に肥満と甲状腺がんの関係性が報告されている。(本県の)甲状腺検査でも肥満であることが甲状腺がんの発見率を上昇させている」と述べ、脂肪組織では男性ホルモンが女性ホルモンに変換されるため、女性ホルモンが発症に影響している可能性があるとした。
シンポジウムは5回目の開催で、国内外の専門家10人が発表し、オンラインを含む186人が聴講した。
神谷研二センター長は、これまでの調査結果を報告し、「未来の創生に貢献するために、今後も注意深く見守っていきたい」と述べた。
「医師の伝える力が重要」 広く発信へ効果的方法
シンポジウムでは、健康に関する研究成果などを広く発信する効果的な方策についても考えた。
ハーバード大T・H・チャン公衆衛生大学院のリマ・E・ラッド名誉上級講師は、健康情報を入手して活用する能力「ヘルスリテラシー」について、伝える側となる医師や専門家にはコミュニケーション能力の向上が求められていると指摘し、情報の伝わり方を検証することが重要だとした。
福島医大総合科学教育研究センターの後藤あや教授は、自身が県内で取り組んでいるヘルスリテラシー研修を紹介し、「一般市民と専門家のコミュニケーションを促進した」と成果を報告した。
楢葉町で復興を後押しする活動を続けてきた町議の佐藤努氏は住民と目線を合わせ、対話型で課題解決に取り組んできたことを説明。東京大大学院の関谷直也准教授は、アジア圏を中心に本県に関する偏見が原発事故直後から変化していないとし、「(原発事故から)回復してきた現状を誤解なく発信することが重要だ」と述べた。