【処理水の波紋・理解の深度】消費地市場、国内でも認知に差

水産物で世界最大級の取り扱い規模を誇る東京・豊洲市場。水産仲卸業者約480社がひしめき、本県にとっても最重要の市場だ。
市場内の水産仲卸「亀谷」は2月17日、本県産のヒラメやメヒカリ、ヤナギダコなど15箱を仕入れ、約3時間で売り切った。亀谷直秀社長は「平均すると、価格はまだ若干安いが、福島産を敬遠するお客さんは徐々に減ってきた」と話す。
農林水産省の流通実態調査によると、豊洲を含む都中央卸売市場で取引された本県産ヒラメの価格は2016(平成28)年以降、東京電力福島第1原発事故前と同水準で推移。他産地との価格差はほとんど見られず、首都圏での取扱量が事故前を上回る年もある。
ただ、本県沿岸漁業の水揚げ量はいまだ原発事故前の2割にとどまる。亀谷社長は第1原発の処理水に関し「科学的に何ら問題なく、ことさらに騒ぎ立てる必要はない」と冷静に語った。
漁獲量増加に期待も
県漁連が20年から漁獲量拡大に努めていることに、首都圏市場から高く評価する声も聞かれた。都水産物卸売業者協会の浦和栄助専務理事は「もともと非常にいい魚。受け入れる土壌はある。大いに増産に取り組んでほしい」と期待した。
しかし首都圏から西側の地域では順風といえない現実が垣間見える。「『汚染水』を流されたら、また風評被害が出る」。名古屋市の大手卸売業者は「処理水」と「汚染水」との混同を示唆し「消費者は嫌がる。『薄めて問題ない』と言っても、東電の説明など信用できない」と強調した。
市によると、22年に中央卸売市場で扱った本県産の生鮮水産物は91トン。原発事故前の10年から92%減り、回復の遅れが際立つ。原発事故前まで本県が主要産地の一つだったという同市の仲卸業「川野商店」の川野太志社長は「今は市場自体に福島産の入荷が減り、ほとんど仕入れなくなった」と説明。政府によるテレビなどでの広報は中京圏でも行われているが、処理水については「知らない」と述べた。
「決めるのは消費者」
政府は21年4月に海洋放出方針を決定した後、流通対策に注力し、三大都市圏で重点的に関係者の理解醸成を図ってきた。その一環で、全国スーパーマーケット協会(東京都)は昨年9月、政府主催の第1原発視察に参加。会員約10社を同行させるとともに、機関誌で処理水の性質を紹介した。島原康浩事務局長は「各企業まで浸透していると思う」としつつ「最終的に買うか決めるのは消費者だ」と指摘。「全国の魚が売れなくなるとの懸念も一部にある。政府は安全性を徹底的に発信してほしい」と訴えた。