【処理水の波紋・理解の深度】海外の懸念拭えず「事実伝えないと」

東京電力福島第1原発で発生する処理水を海洋放出する政府方針を巡っては、中国や韓国など海外でも懸念が生じている。
中国・北京の中心部で日本料理店「蔵善」を営む小林金二さん(66)=田村市船引町出身=は2011年の原発事故直後に食塩が売り場から消え、高値で取引されたことを覚えている。放射性セシウムを含む汚染水が海に流出したとの報道をきっかけに、海水の安全性に対する不安が広がったためだ。
小林さんは処理水について「(海洋放出前の)今は一般市民の間で話題に上ることはない」とする一方で「原発事故から12年がたつ今も『福島は完全に危ない地域』と思っている中国人が多い」と印象を語る。中国で暮らして34年。北京県人会長を務め、中国人に日本料理を教える活動にも取り組んでおり、本県の現状や処理水について正しく知ってもらおうと腐心する。
中韓より少ない放出
放射性物質トリチウムを含む処理水と、汚染水の違いをどう伝えるか。その際、小林さんが用いるのが、各国が原子力施設からトリチウムを海洋に放出しているデータだ。
経済産業省のまとめによると、18年にフランスのラ・アーグ再処理施設は1京1400兆ベクレル、19年に韓国の古里(コリ)原発は91兆ベクレル、中国の紅沿河原発は87兆ベクレルのトリチウムを放出した。これに対し、第1原発で計画する放出量は年間22兆ベクレル未満。
それでも「データを信じてもらえるかどうかは分からない」と小林さんは指摘する。中韓を含む12カ国・地域がいまだに本県など日本産食品の輸入規制を続ける中、「海外の(海洋放出の)現状を強く発信し、もっと多くの人に事実を伝えないと納得してもらえない」と日本政府に注文を付けた。
「情報の発信検証を」
東大大学院の関谷直也准教授がインターネットで行った調査は、処理水を巡る海外の厳しい受け止めを裏付ける結果となった。中韓やロシア、欧米など10カ国・地域で昨年3月に20~60代の合わせて3000人に「処理水が海洋放出された場合、県産食品の安全性についてどう思うか」と尋ねたところ「とても危険」「やや危険」と答えた人の割合は韓国が93%、中国が87%と特に高く、日本以外では全て6割を上回った。
関谷氏は、県民が安全に暮らしている現実を海外に伝え、理解してもらうことが重要とした上で「受け手が情報をどう捉え、どのような理解につながったのか検証が必要だ」と提唱した。