7町村長「ある程度評価」 本紙調査、海洋放出への政府取り組み

東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出に向けた政府の取り組みについて、避難指示が出るなどした県内12市町村長のうち、7町村長が「ある程度評価する」と考えていることが9日、福島民友新聞社の調査で分かった。「評価する」との回答はなく、2市長は「どちらかといえば評価しない」とした。ただ「理解醸成が不十分」とする意見は多く、政府が見込む「今年春から夏ごろ」の放出実施には理解醸成につながる「目に見える取り組み」が不可欠だ。
東日本大震災、原発事故から11日で丸12年となるのに合わせて、海洋放出方針の決定から約2年間の政府の取り組みについて「評価する」「ある程度評価する」「どちらかといえば評価しない」「評価しない」「どちらともいえない」「その他」の6項目から選んでもらい、理由も尋ねた。
政府は、風評対策と漁業の継続を目的とした二つの基金の創設や理解醸成に向けた集中的な広報を行っているほか、東電も風評被害が出た場合の賠償基準を示している。「基金創設や賠償制度の確立などは評価できる」とした広野町の遠藤智町長をはじめ楢葉、富岡、川内、双葉、浪江、葛尾の7町村長が「ある程度評価する」を選択した。
ただ、楢葉町の松本幸英町長は「これまでの情報発信である程度は伝わっている。しかし『理解』までは至っていない人もいる」と指摘。川内村の遠藤雄幸村長は「科学的な安全性に対する国民の理解醸成と風評対策の両立が必要」とし、富岡町の山本育男町長は「スケジュールありきとならないよう、放出前の説明を引き続き求めていく」とくぎを刺した。
「どちらかといえば評価しない」としたのは南相馬、田村両市長で、いずれも「国内外の理解、国や東電の対応とも不十分」とした。田村市の白石高司市長は海洋放出による風評を想定し「観光客の呼び込みや移住定住促進への対策案も必要」と注文を付けた。
大熊、川俣両町は「どちらともいえない」と回答した。大熊町の吉田淳町長は「興味のない人には説明したとしても計画を知るきっかけにしか過ぎない」、川俣町の藤原一二町長も「他の都道府県では理解以前に関心が薄い印象がある」と懸念を示した。飯舘村の杉岡誠村長は回答しなかった。
「評価」3人「どちらともいえず」3人 特定帰還居住で7首長
福島民友新聞社が行った調査では、帰還困難区域の避難指示解除を巡り、政府が新設する「特定帰還居住区域」に対する評価についても、帰還困難区域の残る7市町村長に尋ねた。「評価する」「どちらともいえない」が3人ずつとなり、震災、原発事故から12年が経過しようとする中でも続く地元の苦悩をうかがわせた。
特定帰還居住区域は特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた地域への住民帰還の実現に向け、政府が法制化を進めている。帰還を希望する住民の宅地や周辺道路、集会所、墓地など日常生活に必要な範囲を国費で除染する方針で、市町村が除染の範囲などを盛り込んだ計画を作成する。
政府の取り組みを「評価する」としたのは大熊、双葉、葛尾の3町村長。大熊町の吉田淳町長は「火災や治安の悪化、野生動物の問題など、復興拠点外で多くのリスクが顕在化している」と指摘、すぐに帰還意向を示すことのできない住民の土地、家屋についても速やかに方針を示すよう求めた。
一方、南相馬、富岡、浪江の3市町長は「どちらともいえない」と回答した。富岡町の山本育男町長は「被災者の高齢化や家屋の老朽化などを考えると、スピード感を持って進めていくことが極めて重要」と強調。浪江町の吉田栄光町長は「解除に向けた一歩としては評価するが、全てはこれから」とし、住民の希望に対する柔軟な対応を求めた。
飯舘村の杉岡誠村長は「その他」とし、住民に対し丁寧に意向確認するよう求めた。