原発事故、二審は国の責任否定 いわき市民訴訟、東電のみ賠償命令

 
「不当判決」などと書かれた旗を掲げる原告側の関係者=10日午後2時5分ごろ、仙台高裁前

 東京電力福島第1原発事故で精神的苦痛を受けたとして、いわき市民約1300人が国と東電に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、仙台高裁の小林久起裁判長は10日、国の賠償責任を否定し、東電のみに1417人に計3億2660万円の賠償を命じた。賠償額は一審判決から増額した。一審地裁いわき支部の判決では、国と東電に計約2億400万円の賠償を命じていた。

 同種訴訟で国の賠償責任を否定した昨年6月の最高裁判決後、国と東電を被告とした初の判決となった。原告側は上告する方針。

 小林裁判長は判決理由で、最高裁が判断しなかった点にも踏み込み、国の地震予測「長期評価」の信頼性を認めて「国は2002年ごろまでに大津波を予見できた」と判断した。

 その上で、国が事故前に津波対策を東電に命じなかったことについて「違法な不作為で重大な義務違反だ」と認めたものの「想定した津波対策では必ず施設の浸水を防ぎ、事故を回避できたとは断定できない」として、国に賠償責任はないと結論付けた。

 東電の賠償額については「放射線被ばくにより恐怖心を持ち、日常の生活や活動が著しく阻害された」とし、昨年12月に見直された国の賠償基準「中間指針」第5次追補を上回る賠償を認定した。

 追加された額は、自主的避難等対象区域の大人(妊婦を除く)1人当たり24万円、子どもと妊婦に20万円。対象期間は大人(妊婦を除く)が2011年12月末まで、子どもと妊婦は12年8月末までとした。

 判決を受け、原告側の弁護団は記者会見した。米倉勉弁護士は国の責任を否定した点について「精密な事実認定をしているが結論の論理は極めて脆弱(ぜいじゃく)。最高裁と異なる結論を出さざるを得なかったのではないか」と批判。一方、賠償額については「相当な前進が見られたものの不十分だ。第5次追補では不十分であることを示した」と賠償基準の見直しを求めた。

 原告「不当判決」とため息

 仙台高裁前に「国の責任を認めない不当判決」などと書かれた旗が広げられると、原告や支援者の中にはため息を漏らす人もいた。

 原告の一人、根本一市さん(79)=いわき市平中山=は「残念だ。避難した人の苦労は分かってくれないのか」と吐露した。原発事故直後から約3カ月間、いわき市から親戚宅がある千葉県柏市に家族と自主避難した根本さん。「原発の建設は国と東電の両者が関わっている。一方の責任が認められないことがあっていいのか」と肩を落とした。

 原告の一人である女性(82)=いわき市平下荒川=は「(国の責任を認めることは)厳しいかなという思いはあったが、やっぱり許せない。当時味わった苦しみは消えることはない」と語気を強めた。