【近づく欧州<上>】「水素の福島」熱視線 脱炭素の切り札に

「再生可能エネルギーの中でも特に水素への期待は大きい」。スペイン、ドイツの両国を訪れた内堀雅雄知事は、各地の政府関係者らとの会談の成果を強調した。三つの州との間で更新した連携覚書には、いずれも水素分野での協力が新たに盛り込まれた。会談では本県を舞台とした水素の各種実証などの取り組みが注目され、「水素先進県」に対する欧州の関心の高さがうかがえた。
パイプラインを通じてロシアから天然ガスの供給を受けていた欧州では、ロシアのウクライナ侵攻で、エネルギー安全保障への懸念が拡大した。ドイツでは東京電力福島第1原発事故を受けて決めた脱原発が4月に完了、スペインも30年代半ばに国内7基の原発を止めるという。原発に依存しない国づくりが進められる中、代替エネルギーの確保が喫緊の課題となっている。
「福島から学ぶ」
地球温暖化対策に向けては、温室効果ガス排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)が世界の標準的な考え方になった。それだけに、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素の動向は耳目を集めている。連携覚書を更新したスペイン・バスク州、ドイツのハンブルク、ノルトライン・ウェストファーレン両州では、「福島に学べることがたくさんある」などの声が聞かれた。ハンブルク州のメラニー・レオンハルト経済・イノベーション相は「気候変動対策として水素の浸透は不可欠。福島との連携を通じて取り組みを進化させる」と協力の推進を明言。「(水素分野で)福島への強い視線を感じた」との内堀知事の言葉には、けん引役としての覚悟がにじんだ。
コスト軽減課題
今回の訪欧では、水素がカーボンニュートラルに欠かすことができない「キーエネルギー」との認識を各州と共有し、協力態勢を整えた。一方、既存燃料と比べて生産や輸送コストが高いなど、水素社会の実現への課題は多い。こうした課題の解決には、企業間の連携や活動が欠かせず、県は再エネ関連産業の育成支援に取り組むエネルギー・エージェンシーふくしま(EAF)と協力し、企業の相互交流を強化させる考えだ。
バスク州で開かれた現地の企業向けセミナーでは、中前隆博在スペイン日本大使が本県の事業地としての可能性を紹介し「福島とバスクの強みをきっと生かしていけるだろう」と企業間連携の促進を提案。アランチャ・タピア州経済開発・持続可能性・環境相も共感するように言った。「脱炭素は共通の課題だ。解決に向けて一緒に考えなければならない」
◇
内堀知事は4月23~29日、スペインとドイツを訪れ、再生可能エネルギーや医療機器関連産業分野での協力態勢を確認した。ドイツでは政府機関も訪問し、復興状況などを発信した。震災と原発事故から12年が過ぎた本県の姿は欧州にはどのように映っているのか、現地の反応を追った。