風評対策しっかり 処理水海洋放出、漁業継続へ「諦めず進む」

 
船主を務める明神丸に乗る高橋さん。「これからも水揚げした魚を安心して買ってもらえるのか、そこが全く分からない」と心配する=相馬市

 東京電力福島第1原発の処理水が24日から海に流される。22日、漁業者は政府が風評対策に最後まで責任を果たすよう改めて訴えた。風評への懸念は幅広い分野にくすぶるだけに、浜通りの各業種の関係者からは対策の徹底を念押しする声が絶えない。風評を食い止め、安全に達成できるのか。政府、東電の一挙手一投足に県民は厳しいまなざしを向ける。

 「海洋放出に反対の気持ちは変わらない。だが、覚悟はしていた」。相馬双葉漁協理事で原釜機船底曳網船主会長の高橋通さん(68)は心境を吐露する。

 高橋さんが懸念するのはほかの漁師仲間と同様に風評被害だ。実際、高橋さんの耳には相双沖の魚を買い控えようとする動きが県外の業者に出ているとの話も入っており「私たちが出すのは検査して安全が確認された魚だが、今後も安心して買ってもらえるのか全く分からない」と困惑する。

 同漁協所属の沖合底引き網船は2カ月間の休漁を経て、9月から操業を再開する。今季から原発事故後見送られていた宮城県沖での漁も再び始まる。「次の世代も漁業を継続できるよう復興に向けて諦めず、進み続ける」と言葉をつないだ。

 政府は「関係者から一定程度の理解を得られた」として方針決定に踏み切ったが、いわき市の漁師佐藤文紀(あやのり)さん(33)は「どれだけ漁業者が反対しても意味がなかった。放出ありきだったのだろう」と徒労感を口にした。佐藤さんは7年ほど前から、地元で父とホッキ漁などに取り組み、釣り船も営む。今後も長く福島の海で漁を続けていく立場から切実な思いを語った。「処理水放出は(完了まで)30~40年かかるとされている。最後まで継続した支援を国にはお願いしたい」

 「常磐もの」接客親身に

 「常磐もの」と呼ばれる県産海産物を扱う関係者は処理水の海洋放出により苦境に立たされる事態が予想される中でも販売促進への決意を新たにする。

 いわき市小名浜の観光施設「いわき・ら・ら・ミュウ」の本年度お盆期間(11~16日)の売り上げは前年同期と比べて3割増え、新型コロナウイルスや台風の影響がなかった2018年と比較しても1割増えた。

 追い風が吹くだけに、運営する市観光物産センター参事の小玉浩幸さん(57)は「2次的には私たちも漁業関係者。行政が中心となって積極的に風評対策に取り組んでもらいたい」と語気を強めた。

 施設内の海鮮土産店「まるふと直売店」には本県沖などで取れた新鮮な海産物が並ぶ。従業員の原田和人さん(39)は政府や東電が進める安全対策に納得し「来てくれるお客さんを大切に、これまでと同様に一生懸命接客していくことが大事だ」と前を向く。

 「最終的なゴールの廃炉に向け、海洋放出は受け入れなければいけないとの気持ちはある」。鮮魚加工品販売の「小名浜あおいち」代表の上野台優(ゆたか)さん(47)は必要性を理解するからこそ政府と東電に誠実な対応を求める。「私たちもお客さんに『大丈夫?』と聞かれた際に答えられるような知識を持たなければいけない」と表情を引き締めた。

 一方、流通大手イオンは22日、今後も引き続き県産水産物を提供していくと発表した。処理水に含まれる放射性物質トリチウムを自主検査の対象に加える方針で、担当者は「安全な福島県産水産物を提供していくスタンスは変わらない」としている。イオンは18年6月から県や県漁連と共同で「福島鮮魚便」を展開、東北や首都圏を中心に常設15店舗、期間限定6店舗の計21店舗で取り扱っている。