トリチウム「科学的に安全」 体内に入っても大半は排出

 

 処理水には放射性物質トリチウムが含まれる。溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れた際に混じる他の放射性物質もごく微量残り、風評被害の懸念を呼ぶ要因となっている。そもそもトリチウムなどを含む「処理水」は本当に安全なのか。

 天然に存在する水素原子の99.9%以上は原子核に陽子1個のみを持つが、ごくまれに中性子が入り込む。中性子1個で「重水素」。2個だと「三重水素」となり、これがトリチウムだ。

 宇宙からの放射線が大気と反応しても発生し、自然界に豊富にある。年間223兆ベクレルのトリチウムが雨などの形で国内に降る。

 原子核は不安定で、ヘリウムに変化する際に放射線を出すが、エネルギーは皮膚を通過できないほど弱い。このため、外部被ばくの影響は無視されている。

 一方、体内に入った場合はどうか。日本放射線影響学会が2019年、市民向けにまとめた報告書「トリチウムによる健康影響」によると、大半は尿や呼吸で排出され、タンパク質などに組み込まれた場合でも1年以内に半減する。

 健康への影響は、セシウムの300分の1以下と小さい。マウスを使った実験では、1リットル当たり1億ベクレル超のトリチウム水を生涯飲み続けても「がんの発症率は自然発症率の範囲内」との結論が導かれた。

 第1原発からの年間放出量は最大22兆ベクレル。計画に強く反発する中国の秦山原発が21年に放出した218兆ベクレルを大きく下回るが、「核燃料に触れた」として危険視する声も根強い。放射性物質ストロンチウムなどを含むのは、他の原発にはない処理水の特徴だ。

 報告書をまとめた茨城大の田内広教授(放射線生物学)は「放射線の影響は物質の種類ではなく、被ばく線量で決まる」と指摘。トリチウム以外は「1ミリシーベルト」の安全基準を満たすまで浄化処理した後、さらに海水で数百倍に薄めることで、被ばく線量は極めて低くなるとして「健康への影響は科学的に出るはずがない」と述べた。

 田内氏は「放射線がゼロという世界はそもそも存在しない。線量とリスクの関係を科学的根拠に基づいて理解することが重要だ」と呼びかける。