首長ら厳しい注文 福島県内5市町、東電社長が処理水放出説明

 
面会した小早川社長(左手前から2人目)と伊藤議長(右奥)=23日午前、いわき市・双葉町役場いわき支所

 東京電力の小早川智明社長は23日、本県沿岸部や原発事故被災の5市町を訪れ、24日にも始める福島第1原発で発生する処理水の海洋放出について説明した。各首長らは、風評発生への懸念が依然として強いことから、海洋放出への理解醸成をさらに進めるよう厳しく指摘し、適切な賠償や情報発信を求めた。

 「漁業者だけではなく、一般市民を含めて理解醸成は途上。その中での放出決定は非常に残念だ」。説明を受けたいわき市の内田広之市長は、小早川社長に視線を向け厳しい口調で語った。

 内田市長は科学的根拠や各国の処理水放出状況のデータなどを交えた分かりやすい国民への発信を求め、「(放出が)決まったからには確実に理解醸成を進めてほしい」と念を押した。小早川社長は提案にうなずき、時折メモを取りながら聞き入った。

 会談を終えた内田市長は「賠償の範囲を広げ、きめ細かく対応していくよう求め続けたい」とした。市は風評の抑制に向けて独自にトリチウムの検査を行う方針で、東電にも協力を求める考えだ。

 富岡町では、山本育男町長が「実施に当たっては、ささいな誤りも許されない。人為的なミスや見落としなどは言語道断であり、緊張感をしっかり持って取り組んでいただきたい」と述べた。東電によるこれまでのミスや情報公開の遅れを踏まえての発言で、風評を生じさせる気の緩みがないよう厳しく戒めた。

 第1原発が立地する双葉町では、伊藤哲雄町議会議長が「復興の足かせ」になることがないよう要求した。町内は原発事故に伴う避難指示が昨年解除され、生活再建が進む真っただ中。「町民がこれから定住する時期。福島のイメージがアップするようPRに取り組んでほしい」と提言した。

 終了後に報道陣の取材に応じた小早川社長は、放出を直前に控え「初期段階で問題が起こることはあってはならない。慎重に安全かつ着実に進めたい」と力を込めた。賠償の進め方についても触れ「私が先頭に立って、業種業態関わらず速やかに賠償を行う」とし、対応は廃炉作業が終わるまで続けるとの認識を示した。

 23日は楢葉町で松本幸英町長、広野町の遠藤智町長とも会談した。東電は今後も沿岸自治体を中心に説明を続けるほか、県漁連など漁業関係者にも要請しているという。

 統合対策チームを設置

 東京電力は23日、福島第1原発からの処理水放出開始に向け、社長直轄の「ALPS処理水統合対策プロジェクトチーム」を設置したと発表した。小早川智明社長をチーム長として処理水への対応迅速化を図るほか、原発や風評対策、賠償など関係部署を横断的に統括する。

 チームには、2人の副社長や5人の常務執行役らも副チーム長として入り、東電の関係各部署が一体となって処理水の対応に取り組める体制を整える。合わせて、処理水による風評被害への懸念や賠償などに取り組む専任チームも設置。吉田貴彦常務執行役をチーム長とし、分かりやすい情報発信や適切な賠償対応に当たる。処理水に関する賠償を担当する職員を請求の受け付けが始まる10月までに、約400人規模に増員する方針も明らかにした。