脚光「旅する公務員」 磐梯町独自の遠隔勤務事業、広がる視野

 
埼玉県横瀬町役場の空いた机を借り、職員と交流しながらテレワークを行う小野室長(右)(磐梯町提供)

 磐梯町が行う独自の職員派遣事業が、行政関係者の間で話題になっている。その名も「旅する公務員」。町と交流がある国内外の自治体に派遣された職員が、現地からテレワークで町の仕事を行う。遠隔勤務の可能性を探るとともに、派遣先での経験を通じて職員に視野を広げてもらうことが狙い。町はこの取り組みでデジタル技術の活用事例を評価するコンテストに出場し、特別賞を受賞。今後の展開に期待が集まる。

 それぞれ3日から1週間の日程で滞在し、庁舎の一角を借りてパソコンを使ったテレワークで町の事務業務に当たる。他の多くの自治体は、行政専用の回線「総合行政ネットワーク」(LGWAN)を利用しており、インターネットとは回線が切り離されている。しかし磐梯町はマイクロソフトのクラウドサービスを採用し、どこからでもインターネットがつながるため遠隔勤務に支障はない。

 町のデジタル変革戦略室の小野広暁室長(55)は、これまで何度も「旅する公務員」を務めてきた。現地での仕事は、空いた机とコンセントを借りるところから始まるという。小野室長は「視察や研修で他の自治体を訪問することがあっても、建前ばかりでリアルな姿を見ることはできない。テレワークなら滞在期間が長く、職員だけでなく住民とも関わるので、地域の本来の姿に触れられる」と事業の利点を語る。

 同戦略室の長(おさ)泰志さん(52)は昨秋、海外でのテレワークに挑戦した。町教委によるニュージーランド語学交流の現地調査に同行し、学校同士のオンライン交流会をサポートしつつ1週間の期間通常の事務作業もこなした。長さんは「ポケットWi―Fiの通信環境を使えば、全く問題なく通常業務ができる。場所や時間にとらわれないテレワークの可能性を感じた」と話す。

 町は今年6月、日本DX推進協会などが主催する「日本DX大賞2023」の決勝大会に出場。「旅する公務員」への取り組みなどが高く評価されて「行政機関・公的機関部門」で特別賞を受賞した。事業2年目になる今夏からは、各課の職員9人を交代で埼玉県横瀬町に1週間ずつ派遣する。事前に横瀬町の職員と連絡を取り、どんな仕事をするのか自分たちで考えてもらうという。

 小野室長は「いろいろな働き方が可能になってきたのだから、他の地域にも足を運んで刺激を受け、地元のためになるアイデアや力を出してほしい」と期待を口にした。(伊藤雅将)

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