【未来この手で】第2部・七転び八起き コロナ禍の開催に奔走

「今度のダルマ市はちょっとどうかと」。東京電力福島第1原発事故による全町避難を乗り越え、双葉町の新春の恒例行事「双葉ダルマ市」を継承してきた「夢ふたば人」会長の中谷祥久に、行政関係者は言いにくそうな口調で語りかけてきた。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、2021年1月のダルマ市の開催について、やんわりと難色を示してきたのだ。
避難先のいわき市で最初のダルマ市を開いたのは12年1月、双葉町民が住む勿来地区の南台仮設住宅だった。18年まで休むことなく続け、仮設住宅が閉鎖になると19年からは復興公営住宅「勿来酒井団地」に会場を移した。20年のダルマ市も、各地に避難する双葉町民が集まる場として盛り上がった。だが、団地住民からも「今年はやらないで」と言われるようになった。高齢者が多い団地では、致し方のないことだった。
「夢ふたば人」の中でもダルマ市に深く関わってきた福田一治は「仲間と一緒にこれまで続けてきた。ダルマの在庫もあるし、何とかしないとな」と考えを巡らせた。そして「いわきで駄目なら、双葉でやればいいんだ」とひらめいた。町の大部分は帰還困難区域になっていたが、沿岸部の中野地区などは20年3月に避難指示が解除されていた。
21年のダルマ市は「3密」を避けるため縁起物のダルマを販売する催しに形を変え、1月9日に中野地区の産業交流センターで実施することが決まった。販売会では、手指の消毒や検温などの対策を十分に講じて町民を迎えた。名物イベントの「巨大ダルマ引き」も行われ、3本勝負の結果、無病息災と身体健固の1年になると占われた。
苦境でも伝統守る
福田は、会場に集まった人の中に町長の伊沢史朗の姿を見た。「夢ふたば人」の主力は、福田ら町消防団第2分団の面々だ。伊沢はかつて第1分団に所属していた。両分団は震災前、消防操法の成績や火災現場への先着を争う良きライバル関係にあった。福田は、伊沢に「やったからね」と、感染症拡大という苦境の中でも伝統を守り抜いたことを伝えた。
伊沢は、ダルマ市を継承してきた「夢ふたば人」の活動の根底にあるのが、第2分団の団結力と分かっていた。「伝統を残そうとする熱意は尊敬に値する」。一定の評価をしながらも、伊沢はこう考えていた。「消防団でいえば、自分が現役の時は第1分団の方が元気だったと思うな」
ダルマ市はかつて、町内のさまざまな事業者によって支えられていた。中野地区には、負けず嫌いで復興に愚直なまでに情熱を燃やす伊沢の思いに応え、新たな地域の担い手が遠く岐阜県からやって来るのであった。(文中敬称略)
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