【未来この手で】第2部・七転び八起き 「ただいま」動き出す時

ふたばプロジェクト事務局長 宇名根良平さん 47
「これは本気で考えないといけない」。双葉町のまちづくり会社ふたばプロジェクトの事務局長の宇名根良平は、頭を悩ませていた。JR双葉駅前を中心とした双葉町の特定復興再生拠点区域(復興拠点)は、2022年8月30日午前0時に解除されることが決まった。県内で唯一続く全町避難が解消される。その瞬間を迎えるイベントの企画立案を任されていたのだ。
他の自治体の避難指示解除では、通行を制限するバリケードを開けるという行事ができた。だが双葉町は、円滑な地域再生の準備のため、事前に通行規制を緩和していた。「ライトで光の柱を夜空に照らしてみようか」。アイデアを模索する中、ちょうど事務所を訪れた人物がいた。避難先のいわき市で伝統の双葉ダルマ市を継承している「夢ふたば人」の福田一治だ。「頼れる人が来た」。宇名根は福田に助言を求めた。
「久しぶりに帰るんだよな。駅前にドアでも置いて『ただいま』って言うのはどうだ」。福田の一言に、宇名根は飛び付いた。「いいですね。福田さんの会社でドア作れますか」。7月下旬ごろ、町民有志の主催、ふたばプロジェクトと福田工業の共催による「おかえりプロジェクト」が始動した。「希望のとびら」と名付けたドアを8月30日午前0時に開けることがメインイベントになった。
だが誰がドアを開けるかは、イベント当日まで決まっていなかった。29日午後6時ごろ、JR双葉駅前の会場でドアの設置などの準備が進む中、宇名根は「やっぱり町長かなあ」などと考えていた。福田に「誰がドアを開けますか」と聞いたところ、福田は宇名根をじっと見て言った。「みんなに避難してくださいと呼びかけた人間が、一番先に『ただいま』って帰ってくるのがいいと思うぞ」
11年3月11日、宇名根は双葉町住民生活課に勤務し、防災無線のアナウンサー役だった。迫り来る津波から避難を呼びかけ、刻々と悪化する原発の状況や政府の対応も伝えた。翌朝には「川俣町の避難所に向けて避難してください」とマイクを握った。町民にとって、宇名根の声が全町避難の始まりだった。「大変な役目だが、やってみよう」と心を決めた。
町民万感「お帰り」
30日午前0時、宇名根は「ただいま」と叫んでドアを開け、双葉ダルマのキャラクターに抱き付いた。会場に集まっていた町民からは「お帰りなさい」と声が上がった。復興拠点の避難指示は解除され、原発事故後に止まっていた双葉町の時間は、再び動き出した。
それは、福田ら「夢ふたば人」により大事に守られてきた双葉ダルマ市が、JR双葉駅前に戻る障害がなくなったことも意味していた。
(文中敬称略)
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