【未来この手で】第2部・七転び八起き 町の始まりはダルマ市

 
「ダルマ市は町民にとってのスタートだ」と太鼓をたたく岩本さん

 双葉町商工会長 岩本久人さん 66

 2022年8月30日、双葉町の全町避難は終わりを迎えた。避難先のいわき市で、福田一治ら「夢ふたば人」のメンバーが継承してきたダルマ市も、双葉に戻ることになった。福田らは「俺たちは避難先では夢ふたば人、町内では消防団第2分団だ。23年からの新しい主催団体をつくった方がいい」と町などに伝えていた。その結果、各種団体でつくる実行委員会が組織され、町商工会長の岩本久人がトップに就任した。

 町内の前田地区で「岩本酒店」を営んでいた岩本は、商工会青年部の一員としてダルマ市の出店などを手伝っていた。当時は40歳で青年部を卒業する決まりだったが、引き続きダルマ市に関わった。商売の傍らで、地域の神楽を継承する「三字芸能保存会」に入っていたからだ。震災前のダルマ市では近くの初発神社で奉納神楽大会が開かれ、岩本は毎年参加していた。

 仲間たちと息を合わせて笛を吹き、太鼓をたたく。獅子が勇壮に舞い、見る人からは大きな拍手が送られる。そのような楽しいつながりも、原発事故によって失われていた。岩本は散り散りに避難していた保存会のメンバーに「みんなで集まろう」と呼びかけ、酒を酌み交わしながら活動再開を話し合った。全町避難の混乱の中で失っていた獅子頭を新調し、再び神楽を大勢の前で披露できたのは18年のことだった。

 神楽の再開に尽力

 神楽の再開に尽力した岩本だけに、休むことなく双葉ダルマ市を続けてきた福田ら「夢ふたば人」の取り組みを、「誰にでもできるものではない」と感じていた。双葉町の避難指示解除の前後を振り返ると、22年8月27日にJR双葉駅前に整備された町役場新庁舎の開庁式が行われた。30日の解除当日を挟んで、9月5日に役場での業務が本格始動した。いずれも大きな節目だったが、岩本は町議として、町民の一人として立ち会いながら、こう考えていた。

 「行政機能が先に戻らないと、当然町のスタートにはならない。だが、多くの町民はまだ避難先におり、役場が戻ってきたという実感はまだはっきり分からないだろう。本当の意味での町の復興の始まりは、やはりダルマ市ではないだろうか」。1月の第2週、初発神社の境内で1年の町の発展、町民の健康などを願って神楽を奉納してきた記憶がよみがえっていた。岩本は実行委員長として、復活したダルマ市では「夢ふたば人」への感謝の言葉を述べようと決意していた。

 震災と原発事故を乗り越えて再び古里に戻ってくる双葉ダルマ市。多くの人の思いをのせ、今年1月7、8の両日、JR双葉駅前で行われることが決まった。(文中敬称略)