処理水放出、福島県57市町村「影響なし」 嫌がらせ電話は除く

 

 東京電力福島第1原発からの処理水海洋放出を巡り、福島民友新聞社が処理水の放出開始の影響について県内の59市町村に調査した結果、中国からとみられる嫌がらせ電話を除き、現時点で大半の57市町村で処理水による風評被害などの影響は確認されていないことが分かった。ただ、一部でインバウンド(訪日客)の宿泊予約キャンセルなど風評の影響とみられる事案も確認されており、各市町村は今後の影響の広がりを注視している。

 処理水放出から1週間以上が経過した4~8日に各市町村に取材した。全国的に相次いでいる中国からとみられる嫌がらせ電話で業務に影響が出ているとした自治体は複数あったが、それを除けば、懸念された県内の風評被害は限定的とみられる。

 影響があったと回答した福島市では放出開始後の市の調査で、市内の宿泊施設でアジア圏からの旅行者の宿泊予約のキャンセルなどが確認されたという。飯舘村は「現時点では判断できない」とした。

 処理水放出では、東電や国、県が行う原発周辺の海水のトリチウム濃度検査で特異な値は出ておらず、水産庁の海産物の継続的な検査でも安全性が確認されている。県水産海洋研究センターの調査では、県内3漁協の市場で取引された魚の平均単価が放出前から大きな変動がなかったことも分かっている。また県内は、放出開始前から中国への海産物の輸出はほとんどなく、中国が日本産海産物を全面禁輸とした影響も限定的だった。

 一方で風評被害については不安も根強く、県内では浜通りを中心に独自の風評対策の導入を検討する自治体もある。いわき市は常磐もののブランド力強化や独自の海水のトリチウム濃度分析などに取り組む方針で、相馬市では地元産の農水産物の海外PR事業、浪江町では産業支援のイベントなどを計画している。今後の状況を踏まえながら、独自の風評対策導入を検討しているとした自治体も複数あった。

 海産物への応援広がる

 処理水の海洋放出後、県内の複数の自治体でふるさと納税が急増している。特に返礼品として海産物を取り扱う自治体では増加が顕著で、本県支援の動きが広がっている。

 浪江町では、処理水の放出が始まった8月24~31日のふるさと納税の申し込みが前年同期の約15倍となる103件あった。返礼品の8割は水産物で寄付の際には「風評に負けないで」「浪江の魚はおいしいから応援している」などのメッセージが寄せられたという。

 ふるさと納税を巡っては、いわき市でも放出開始後に申し込みが急増していて9月に入っても増加傾向が続いており、名称に「常磐もの」や「常磐沖」と入った返礼品の人気が高いという。南相馬市は8月25~31日のふるさと納税が前年同期の3倍を超え、「根気よく頑張ってください」とのメッセージも寄せられている。

 沿岸部以外の市町村では目立った増加はないものの、福島市には「福島の海産物を応援したい」との問い合わせがあり、沿岸部の自治体を紹介したケースもあったという。