継承・松川事件【無罪から60年・下】 「世界の記憶」へ模索

「松川事件をもっと多くの人に知ってもらいたい」。関係団体は事件を長く伝えていくために、未来へつなぐ道を模索している。
福島大やNPO法人県松川運動記念会(福島市)などは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」(世界記憶遺産)に松川事件を登録しようと活動する。同大の「松川資料室」に保存されている資料について、国内委員会に登録を2回申請したが、いずれも推薦は見送られた。
登録申請したのは、元被告が獄中から家族などに宛てた手紙や、元被告20人全員の逆転無罪を決定付ける証拠の一つとなった「諏訪メモ」などの資料だ。
登録は2年に1回で、今年は該当年だったが「確実に推薦されるための準備期間が足りない」との理由から申請を見送った。「三度目の正直」の登録を目指して今後も資料の整理や研究を進め、2年後を見据える。
若い世代に伝えたい
記念会はこのほか、市民らに松川事件の歴史や冤罪(えんざい)について広く考えてもらう機会を提供しようと、無罪確定50年の節目に「松川賞」を創設。事件をテーマにした文学作品や論文などを募って表彰している。
これまでに高校生や大学生からの応募もあり、生前から「松川を若い世代に知ってもらいたい」と訴えていた元被告で最後の生存者だった阿部市次さん=享年(99)=の思いは引き継がれている。
吉田吉光事務局長(76)は「事件を学ぼうと意欲的な人が増えればうれしい。こちらが一方的に発信するだけでなく、共に考え、継承に参加してもらえたら」と期待する。
福島で全国集会
今月30日と10月1日には、福島大で無罪確定60周年を記念した全国集会が開かれる。冤罪の歴史や再審法の改正をテーマにした講演やシンポジウムを予定する。
シンポジウムでコーディネーターを務める同大行政政策学類の高橋有紀准教授(39)=刑法=は「袴田事件や大崎事件などで再審や冤罪に関する話題が叫ばれるこのタイミングだからこそ、多くの人が松川事件を考えるきっかけとなる」と意義を語る。そして「(冤罪事件の)再発を防ぐ仕組みになっているか、日頃から関心を持つことが必要だ」と指摘する。
福島市松川町の事件現場近くには、記念塔「松川の塔」がそびえ立つ。無罪確定から1周年を記念して建てられた塔のそばをJR東北線が走る。「二度と松川を繰り返さない」。今を生きる者として当事者の思いを引き継ぎ、学んだ歴史や教訓をいかに継承していくかが問われている。
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この連載は多勢ひかるが担当しました。
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ユネスコの「世界の記憶」 世界的に重要な記録物への認識を高め、保存や公開を促進することを目的に1992年に創設された。登録のための審査は2年に1回行われ、1カ国につき申請は2件以内。ユネスコ執行委員会で決定される「国際登録」のほか、「世界の記憶」アジア太平洋地域委員会が決める「地域登録」がある。
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