濁流瞬く間「2階に逃げるだけでやっと」 浜通り豪雨、被害相次ぐ

熱帯低気圧に変わった台風13号に伴う大雨は、福島県いわき市など浜通りに甚大な被害をもたらした。線状降水帯による局地的な大雨で河川が氾濫。同市内郷地区では、地区内を流れる宮川と新川が瞬く間にあふれ、多くの住宅が浸水した。床上浸水の被害は千棟以上で県内最多とみられる。地区住民らは雨が落ち着いた9日朝から、泥かきなどの片付け作業に追われ「こんなことになるとは想像していなかった」と言葉を漏らした。
「あっという間に家の中がめちゃくちゃになり、2階に逃げるだけでやっとだった」。同市内郷宮町に50年以上暮らす鈴木滝子さん(85)は、宮川の氾濫で浸水した自宅をぼうぜんと眺めていた。
鈴木さんによると、宮川が氾濫したのは8日午後9時ごろ。水が一気に押し寄せ、約1.5メートルの高さまで漬かったという。2019年の東日本台風でも宮川は氾濫。堤防を高くする工事が行われたというが、対策を上回る大雨となった。「台風の後に家電を買い替えたばかりなのに...」。鈴木さんはやるせない思いを口にした。
同市内郷白水町で石材店を営む内郷商工会長の湯沢良一さん(59)は「車も木もいろいろなものが流れてきた」と当時の状況を明かした。自宅兼職場が浸水し、営業車やトラック計7台も被害を受け「営業再開はいつになるのか」と下を向いた。庭先の倉庫と車2台が流された岡陽一郎さん(60)も「命は助かったが、この先どうすれば...。この家で生活できるのかも分からない」と肩を落とした。
同市内郷地区を流れる新川沿いには、氾濫で流されたとみられる約10台の車がぶつかり、重なり合う場所もあった。被害を受けた車を所有する片寄誠さん(57)は「今回の大雨でも平気かなと思ったら、とんでもなかった。ほかの車も同じように流されたんだと思う」と語った。
内郷地区以外でも大きな被害
いわき市では、内郷地区以外でも大きな被害が出た。南部を中心に被害が拡大。浸水による被害が相次いで発生し、市民生活は大きな影響を受けた。
「店は50年近く続くが、ここまでの被害は初めてだ」。同市中岡町の「美保薬局」は床上浸水の被害を受け、備品や棚が泥水に漬かった。
片付け作業に追われたスタッフの岡部美智子さん(68)は「洗浄作業などがあり、いつも通りの営業ができなくなった。片付けをしながら、営業を続けて復旧させるしかない」と表情を曇らせた。
同市遠野町の養豚場「ピクアジェネティクス遠野農場」は事業所につながる林道が倒木でふさがれた上、林道の路肩もえぐられ、大型トラックが通行不可能になった。飼育している豚約9千頭に与える飼料運搬や豚の出荷が難しくなり、場長補佐の森志郎さん(61)は「道がどうしようもない状況で、これまでにない被害だ。豚が痩せると肉が落ちてしまい、出荷できなくなる」と頭を抱えた。