須賀川一中・柔道部事故20年、娘の死から5年...両親「教訓伝える」

 
侑子さんが使っていたベッドの隣に座りながら、家族写真を眺める政恭さん(左)、晴美さん

 須賀川市の須賀川一中で2003年、柔道部の練習中に起きた事故で重傷を負い、後遺症のため自宅で療養していた車谷(くるまたに)侑子さん=事故当時1年、享年(27)=が亡くなってから12日で5年となった。10月には事故発生から節目の20年を迎えようとしている今、侑子さんの両親は「事故がなかったことにならないように教訓を伝えていきたい」と再発防止を願っている。

230912news703-1.jpg事故前の12歳の車谷侑子さん

 「あっという間に日々が過ぎていった。とにかく必死だった」。侑子さんの父政恭さん(67)と母晴美さん(60)はこの20年を振り返る。予期せぬ事故の発生、原因の究明、裁判、娘の死―。心身ともに大きな負担を強いられた日々だった。

 市や学校は当時、事故の状況調査を行ったが、両親にとって一方的と感じる内容ばかりだった。2人は学校に事故原因の究明を求めたが「学校からの回答は『原因不明』の一言のみで、十分な説明はなかった」
 「これでは侑子が報われない」。政恭さんは自ら柔道部員に会い、証言を集めた。その後、市などを提訴し、学校側の過失が認められた。気付けば事故から6年が経過していた。

 侑子さんが亡くなった後、晴美さんらは、学校で起きる事故いわゆる学校事故に関するシンポジウムなどに参加し、学校事故の多さや毎年のように死者が出ていることに驚いた。「これだけ事故があるのに、対応策がないのはおかしい。指導者や若者に事故の教訓を伝えていきたい」と思いを強くしている。

 学校事故防止へ、調査基に対策を

 日本スポーツ振興協会によると、2005~21年度に全国で児童生徒らが死亡した学校事故は1074件、けがを負い児童生徒らに障害が残った学校事故は7115件だった。
 学校事故について調査研究する名古屋大の内田良教授は「学校で起きる事故は、同じような内容が多い」とし「検証や教訓がしっかり共有されていれば防ぐことは可能だ」と指摘する。

 内田教授は事故防止に関する文部科学省の指針や事故の調査報告書が現場で十分に共有されていない可能性を挙げ、「人の命に関わる問題。学校側は『残念でした』の一言で終わらせるのではなく、調査に基づく防止策を子どもたちに返していくことが必要だ」と話す。


■須賀川一中柔道部事故 2003年10月に発生した。事故を巡る民事訴訟の事実認定などによると、車谷侑子さんは当時部長の男子生徒に一方的に投げられて頭を強く打ち、硬膜下血腫のため意識不明となった。侑子さんと両親は06年8月、学校側が安全配慮義務を怠ったなどとして損害賠償を求め、市などを提訴。地裁郡山支部は09年3月、市などの過失を認め、約1億6千万円の支払いを命じる判決を言い渡した。