【環境考察/森の再生】放置され老いる森林 利用先なく伐採進まず

 
森林の様子を確認する田子会長。樹齢100年を超える樹木もある=昨年11月、いわき市三和町中寺

 高さ数十メートルはあろうかというスギが何十本もそびえ立ち、木漏れ日が降り注ぐ。いわき市三和町中寺の森林で、県森林組合連合会長の田子英司(68)は頭上を見上げた。「この木は植えられてから110年くらいたつかな。幹もだいぶ太くなったね」。近くでは伐採作業が進められていた。

 ■目安を過ぎても

 一般的に、スギなどは樹齢50年程度が伐採の目安とされる。ところが、伐採の適齢期を過ぎても切り倒されない老木が増え、森林の老齢化が進んでいる。県によると、県土の約7割を占める森林のうち、人の手によって育てられた人工林は約3割あり、その6割近くは樹齢が50年を超えているという。

 「木を切って植林することが理想だけど、なかなかうまくいかない」と田子はため息をついた。その原因の一つが国産材の需要の減少だ。国内では荒廃した森林を復興するため、1950年に全国植樹祭が始まった。木材需要が増加し、50年代後半には広葉樹に代わってスギやヒノキなどの針葉樹を植林する拡大造林政策が取られた。

 しかし安価な外国産材が流通するようになり、国産材の需要が低迷。森林は整備されないまま放置され、老齢化が進んでいった。

 ■温暖化にも影響

 森林の老齢化は、地球温暖化に影響を及ぼすとされる。林野庁などによると、樹木は光合成をすることで大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、酸素を発生させながら炭素を蓄えて成長するが、老木の吸収量は光合成が活発な若木に比べて少ないという。国内の森林の吸収量は2014年度の約5750万トンから、21年度には4760万トンに減少した。

 「森林整備が環境問題に影響することは承知している。将来のことを考えれば、待ったなしの状況にあるのではないか」。田子は厳しい表情を浮かべた。木材の利用先がなければ、伐採も思うように進まない。「新たな需要を開拓していかないといけない」との思いを強くする。

 近年は温暖化防止の観点から森林の役割を見直し、木材利用を後押しする動きも出ている。田子は言葉に力を込める。「環境のことを考えれば、川上も川下もない。森林の置かれた現状を多くの人がきちんと理解し一緒になって考えていく必要がある」(文中敬称略)

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 樹木の二酸化炭素吸収量 林野庁によると、樹齢36~40年のスギ1ヘクタール(人工林)が1年間に吸収する二酸化炭素の量は約8.8トン。1世帯が1年間に排出する二酸化炭素量は4480キロ(2017年)で、樹齢40年のスギ509本分に相当する。

 「誰かがやらないと」 窮地の林業、若手が光

 林業の担い手不足と高齢化が、森林の老齢化に拍車をかけている。整備されずに荒廃する森林。そんな現状を改善して未来につなごうと、林業の世界に飛び込み奮闘する若手がいる。

 ■「将来が見えない」

 「木材の価格が上がらず、山の将来が見えない状態でしたね」。いわき市森林組合業務課造林係長の中村寛寿(46)は、組合で働き始めた約25年前を振り返る。

 木材価格の低迷は林業の生産活動と経済規模の縮小を呼ぶ。間伐がされない森林では、太陽の光が差し込まないため、背の低い「下層植物」が育たず、動植物にとっての「環境」が悪化する。「管理が大変だから」と植林をしなかったせいで、森林は日に日に荒れていった。中村は「山に対する関心がだんだんと薄くなっていた」と話す。

 林業の従事者も減少し、高齢化している。県によると、1990年度に3307人だった林業就業者は2020年度に2192人に減少。65歳以上が全体の約4分の1を占める。

 ■アカデミー1期生

 「不安はあるけど、誰かがやらないといけない。とにかく挑戦してみよう」。多くの課題を抱える森林の世界に昨年4月、1人の女性が足を踏み入れた。いわき市森林組合業務課造林係の野村結(27)は県が22年4月に開校した林業アカデミーふくしまの1期生。1年間の研修を経て、組合で働くようになった。

 林業に関わったことはなかったが、西郷村出身で子どもの頃から山を身近に感じていた。高校、短大時代に建築や農業を学び、「1次産業に関わりたい」という気持ちもあった。何より環境問題に興味があり、「山の環境を良くしたい」という思いが強かった。

 組合で働き始めて以降、多くの関係者に会い、伐採現場の測量や調査などを行ってきた。森林を所有する人の山に対する関心の低さを実感する一方で「思い入れがあり、山の将来を考えている人はたくさんいる」とも感じている。

 地球温暖化の影響で、近年は森林の価値が見直され始めている。変革の時を迎えている林業に「環境という視点をしっかり考えて向き合っていきたい」と中村は力を込める。野村は「子どもたちにとって森林が身近なものとなり、大人になったときに環境のことも考えられるようにしていきたい」と意気込む。2人は荒廃した森林に光を差し込み、次代に残していくための未来図を思い描く。(文中敬称略)

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 地球温暖化が人々の生活や生態系に与える影響について考える連載「環境考察」の第2部では、荒廃する森林の現状や再生の動きを追っていく。