【環境考察/森の再生】豊かなブナ林、衰退危機 生育不適予測

 
ブナ林を案内する中野さん。自然な状態で残っている=只見町

 「山の急斜面に生えているのがブナです。ほとんど手付かずの状態で残されてきました」。只見町の山林で町ブナセンター主任指導員の中野陽介(36)が指さした。

 ■「只見町の誇り」

 只見町とその周辺には広大なブナ林が広がる。高さが30メートル近くあり、幹の太さが1・5メートルを超える樹齢数百年の巨木も多い。辺りにはユキツバキや希少なヒメサユリが生え、ニホンカモシカの姿も確認できる。「これだけの自然が残っているのは、町にとっての誇りです」と中野は続けた。

 豊かな自然を象徴する存在ともいわれるブナ林は国内各地に存在する。だが今後、分布に適した地域(分布適域)が大きく変化するかもしれない。

 森林総合研究所(茨城県)などがまとめた研究結果によると、2100年に九州や四国地方などでブナの分布適域がほとんど消滅し、東北でも大きく減少する。世界自然遺産に登録されている白神山地(青森県、秋田県)ではブナの衰退が進行するという。

 福島県が昨年4月に公表した予測でも、県内のほぼ全域で「生育不適」となる。標高877メートルの筑波山(茨城県)山頂ではすでにブナが衰退しており、保護活動が進められている。

 分布適域の変化はなぜ起きるのか。同研究所生物多様性・気候変動研究拠点長の松井哲哉(56)は、地球温暖化でブナの生育環境が変わることが要因と説明する。ブナは冷温帯に生育する落葉広葉樹で、寒過ぎても暑過ぎても育たない。温暖化が進み、今あるブナが消滅することは考えにくいものの、ほかの樹木に置き換えられる可能性はあるという。「ブナが次の代、その次の代へと残っていくことは難しいだろう」と松井は予測する。

 ブナの減少は生態系の変化に直結する。餌となるブナの実が少なくなることで、クマが街に下りてくるなど行動に影響することが懸念される。

 ■「手遅れになる」

 ブナなどの森林は数百年という長い年月をかけて少しずつ変化していく。「目に見えて変化を感じることは少ないが、ふとした時に『そういえば、以前と違う』と思う。一度崩れたものを元に戻すことは難しく、その時にはすでに手遅れになっている可能性がある」。松井は警告した上で、こう強調した。「森林の変化は長い目で見ないと判断を見誤る。気温、草花、野生動物の管理など、さまざまな影響を総合的に考えて対策を進めていくべきだ」(文中敬称略)

          ◇

 ブナ 北海道から九州までの広い範囲に分布するブナ科の落葉広葉樹。国内には「イヌブナ」と「ブナ」がある。青森県から秋田県にかけて広がる白神山地は世界有数のブナの原生林で、1993年に世界自然遺産に登録された。