【環境考察/森の再生】シカ、食害深刻 他から移動、広域対策急務

 

 「樹皮が剥がれているのはシカに食べられたからです」。自治体向けの鳥獣コンサルティングなどを手がけるボルダー(南会津町)社長の千本木洋介(35)は下郷町の山中でこう話した。周辺には枝が折れ、木や下草がない場所もある。ほとんどがシカが食い荒らした跡だという。

 ■南会津中心に生息

 シカはかつて、県内であまり確認されていなかったが、近年、南会津町を中心に生息数が増加している。環境省の調査では、シカが同町に移動してきたのは20年ほど前で、2010年ごろには住民もシカを見るようになった。その後も生息数は増え続け、県によると、裏磐梯周辺でも増加傾向にあるという。

 生息数の拡大に伴い食害も深刻だ。南会津町によると、14年の農作物の被害額は約140万円だったが、19年には約570万円と4倍ほどになった。

 食害の影響は農作物に限った話ではない。「潜在的な林業被害のリスクが拡大している」と千本木は指摘する。シカは木の下に生える草や低い場所にある木の葉を好む。現在は背の低い「下層植物」の減少が目立つが、食害が進めば森林の多くの植物が食い荒らされ、生態系の変化や土壌流出の恐れが出てくる。

 南会津町のシカはどこから来たのか。福島大などが行った調査で、隣接する栃木県日光市に加え、ほかの地域からも移動してきていたことが分かった。40年近く前から生息が確認されている日光市からは予測できたが、ほかの地域は想定外だった。

 同大共生システム理工学類准教授の兼子伸吾(45)は「ほかの地域に由来する個体が確認されたことが(調査の)成果」と強調する。複数の地域に由来するシカが交ざり合うと、遺伝的に分布が拡大することを意味するという。「シカが増えて県内に広がっていくのは間違いない」

 ■積雪量減少が影響

 生息域が拡大した原因は明らかではないが、天敵のオオカミの絶滅や狩猟者の減少、暖かい日が続いて積雪量が減少し、雪を苦手とするシカが活動しやすくなったことが考えられる。

 シカの食害は各地で問題となっている。東京・奥多摩地域では04年、裸地化した森林から大量の土砂が大雨によって流出した。広がる食害に、千本木は「森林に与える悪影響は大きい。農業被害に加え、森林のことも考えていくべきだ」とする。兼子は広域的な対策の必要性を訴え「現状をしっかり把握した上で対策することが必要だ。南会津の状況を学び、生かしてほしい」と言葉に力を込めた。(文中敬称略)

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 シカによる森林被害 シカの口が届く高さの枝葉や下層植物が食べられ、なくなったりする。林野庁によると、北海道から九州まで日本各地で被害が確認されており、野生鳥獣被害の約7割を占める。