サルの食害対策急務、浜通り中心に 原発事故避難境に生息域拡大

 
浪江町の立野下行政区で行われている花火を使ったサルの追い払い

 東京電力福島第1原発事故で避難指示などが出された12市町村で、ニホンザルによる農作物の食害が懸念されている。12市町村を含む浜通りのサルによる昨年度の食害は224万円で、前年度の40倍以上になっている。関係者は「営農再開が進むほど、被害は大きくなっていくのではないか」と、対策を講じる必要性を指摘する。浪江町の立野下(たつのしも)行政区での取り組みを取材した。(菅野篤司)

 「けっこう大きな音がするよ」。南相馬市に隣接した立野下行政区で農業を営む男性(73)は、サル追い払い用の花火に点火し、住宅から山林の方角に向かって放った。「パン」という猟銃を撃ったような音が連続で集落に響く。「前は40匹ぐらい出てきていたから、大人でも怖かったよ」と語る。

 原発事故前の浪江町では、サルの群れが生息していたのは町の常磐道よりも西の地区だった。しかし、全町避難で住民がいない間に生息域は拡大し、2017年に町の一部の避難指示が解除された時には、平野部でもサルの群れが見られるようになった。別の男性(74)は「動物の群れの中に人間が帰ってきたようだった」と振り返る。

 立野下行政区は「川房群」と呼ばれる100匹を超える群れの縄張りになっていた。町は、住民と協力して花火などを使ったサルの追い払いを始めた。同時に、群れの数を花火で追い払える規模にコントロールするため、罠によるサルの捕獲も進めた。

 現在は群れを30匹弱にまで減らしたこともあり、立野下行政区では住民の顔を見ただけでサルが逃げる状況まで持ち込むことができた。だが、川房群は追い払いの動きが弱い地区では人家に近づき、農作物に手を出しているという。

 浪江町では、このほか平野部だけでも「山麓線群」と「高瀬川群」というサルの群れが確認されている。その生息域は、昨年3月に避難指示が解除され、今後営農再開が進むことが見込まれる特定復興再生拠点区域(復興拠点)に近い。町の担当者は「住民がまだ少ない場所でどのようにして被害を防いでいくかが、被災地のサル対策の課題になっている」と指摘する。

12市町村のニホンザル 12市町村のサルの生息域は震災前、飯舘村や南相馬市、浪江町などの山間部にとどまっていた。しかし、復興庁の2023年1月の調査では、42の群れに2600匹が生息し、活動範囲は平野部にまで広がっている。住民避難で、サルの進出を抑えていた人的な圧力が弱まったことが影響している。