松川浦、戻る生態系 東北最大級の干潟、ヨシ群落...10年で倍増

 
東日本大震災の津波で大きな被害を受けた松川浦。失われた生態系が緩やかに回復している=相馬市(ドローン撮影)

 東日本大震災の津波で大きな被害を受けた相馬市の松川浦で失われた生態系が緩やかに回復し、一部は震災前以上に多様化していることが、県の調査で分かった。面積が拡大したヨシの群落に希少な貝などがすみ着き、貝類を餌とする鳥類の種類が増えるなど、東北最大級の干潟に新たな好循環が生まれている。

 松川浦は震災の津波で、太平洋と松川浦を隔てている砂州が分断され、堤防が破壊されるなど甚大な被害を受けた。県は2022年度、松川浦などを対象に10年ぶりの動植物調査を実施。分析結果を10日までにまとめた。

 ヨシ群落の面積は81.95ヘクタールで、震災後の12年に実施した前回調査から2.2倍に拡大した。群落は津波で一部消失したが、海岸近くの低地で復活し川の地形変化によって新たに分布が確認された場所もある。海水が入り込むヨシ群落は全国的にも珍しく、希少種のすみかになりやすいという。

 ヨシ群落には貝やカニなどの底生生物が生息しており、「ふくしまレッドリスト」で絶滅危惧2類指定の巻き貝カワグチツボなど、41種の底生生物が02年の調査開始後初めて確認された。一方、16種は震災前にのみ確認され、今回の調査では見つからなかった。

 鳥類は震災前の140種に対し、震災後は155種が確認された。貝類を餌とする鳥類にとって、震災後の変化は成育環境の好転につながったようだ。自然環境の豊かさを示すシギ・チドリ類は、絶滅危惧2類のホウロクシギを含む9種が確認された。

 一方、かつて生息していた絶滅危惧1類のヒヌマイトトンボは、前回に続いて確認できなかった。震災の地盤沈下によって海水が流れ込み、湿地の塩分濃度が上昇したことで、生息に適さなくなった可能性がある。報告書では「今後、周辺から移動してくる可能性はかなり低い」と結論付けた。

 震災前から松川浦の底生生物などを調べているみちのくベントス研究所(仙台市)の鈴木孝男所長は「松川浦の環境は思いのほか早く回復しており、震災前の状態に戻りつつある。調査を継続することで、(底生生物の分布範囲の変化などから)温暖化の影響が把握できるかもしれない」と話した。県は「調査の結果、希少種などの存在が把握できた。公共事業を行う際などに配慮し、引き続き環境保護に努める」(自然保護課)としている。

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 松川浦 砂州で外海と切り離された県内唯一の潟湖。南北約7キロ、最大幅約1.5キロの潟湖では海水と真水が混ざり合い、ノリの養殖やアサリの採取が行われている。潟湖に隣接する湿地では県外から土砂を運び入れて埋め立てる計画があり、市民や漁業者からは環境への影響などを懸念する声が上がっている。相馬市は土地の埋め立てなどを独自に規制する条例を制定し、1日から施行した。

 県の動植物調査 東日本大震災の影響が大きい沿岸部の県立自然公園(松川浦、磐城海岸)で、生物多様性の保全・再生や復興の在り方を検討するための調査。松川浦では水質や植生の分布に加え、鳥、昆虫、底生生物類、外来種の生息状況など計9項目を調べた。今回は2022年6月~23年1月に実施し、震災から間もない12年度の前回調査からの変遷や将来予測を報告書にまとめた。

松川浦

アオサギ

松川浦付近で生息するアオサギ