【参院選ふくしま前線ルポ・浜通り】復興へ失望と期待 18歳も厳しい目

 
選挙カーが行き交う市街地とは対照的に、静けさに包まれる仮設住宅=25日、いわき市

 「5年間、何も変わらなかった。『復興の加速』なんて魔法のような言葉は信じられない」

 大熊町から仮設住宅に避難する塗装業の菅野義光(62)は、小さな物置で仕事道具を片付けながら、政治への失望感を口にした。

 公示後、最初の週末となった25日。いわき市にある大熊町第3応急仮設住宅では、選挙カーが行き交う市街地とは対照的に、候補者のポスターが貼られた掲示板に見入る住民の姿はまばらだ。

 震災前、大熊町の借家に暮らしていた菅野は、不動産を持つ人に比べ賠償金は少ない。1000万円以上かけてそろえた塗装資材の賠償額は60万円にとどまった。再開した仕事の量は震災前の3分の1程度。仮設を出て生活を再建する余裕はない。「避難者の実態をよく見て、生活が目に見えて変わる政策が必要だ」。政治との距離を感じながら、心の底では希望を見いだす。

 一方、新たに有権者となった若者は、漠然としていた初めての選挙を現実のものとして向き合い始めた。

 若手技術者の養成を担ういわき市の福島高専では、学生が候補者の公約が掲載された新聞を手に思いを巡らせた。「皆『復興』を訴えているが、どうなれば復興なのか」。地元出身の遊佐和貫(18)は、震災から5年の変化を振り返りながら、今後の行く末を考える。

 同校では放射線工学や再生可能エネルギー、減災工学など復興や廃炉に必要な新たな課題に携わる学生も多い。4年の高橋昂太(18)は「水素エネルギーは化石燃料を使わずに製造するのが難しいと聞く。本当にできるのか」と実現可能性に厳しい目を向ける。

 新産業や再エネ訴え

 岩城光英は公示日の夕方、地元のいわき市に入り、双葉郡からの多くの避難者が暮らす同市の状況を念頭に「復興を担うのは岩城」と強調した。浜通りを新産業の拠点とする福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の実現に意欲を示し、陣営は「自公政権は福島の未来を形にできる」とアピールする。

 民進党代表の岡田克也と共にいわき市で演説した増子輝彦は「いつまで仮設暮らしが続くのか、避難者は嘆いている」と自公政権下での復興の遅れを指摘。「復興は『オール福島』で進めるべきだ」と主張。相双では、南相馬市に生産開発拠点がある藻類バイオマス発電など再生可能エネルギーの導入推進を訴える。

 矢内筆勝は帰還促進に向け、現在の放射線量の安全性や、除染費用を削減し生活環境の整備に充てる政策を訴え、支持拡大を図る。

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 参院選福島選挙区では、1議席を巡って3候補が激戦を繰り広げている。初めて政治に参画する若者など住民の声を通し、選挙の意義を問う。(文中敬称略)