【参院選ふくしま・焦点】処理水/新たな風評不安 理解促進へ注文

 
本県沖で取れた魚が並ぶケースを見つめる阿部さん。海洋放出には消費者の理解が必要と考えている

 東京電力福島第1原発で発生する処理水を海洋放出する政府方針を巡り、東電が原子力規制委員会に認可申請した放出設備設置に向けた計画が7月にも正式認可される。来春をめどとする海洋放出に向けた手続きが進む中、国内外の理解、納得を得るための対応が求められている。

 「消費者が納得していないのならば、海洋放出は受け入れられない」。いわき市久之浜で鮮魚販売・卸売りを手がける「はまから」の阿部峻久代表(39)は、店舗内のケースに並べられたヒラメやカナガシラなど、本県沖で取れた旬の魚介類を見つめながら厳しい表情で心境を吐露した。

 取引先開拓に努力

 プランクトンが豊富な海域を持つ本県の魚介類はかつて、身が厚いなどの理由から他地域での評判も高かった。しかし、本県漁業は震災と原発事故後、長らく試験操業が続き、現在は本格操業への移行段階にある。そんな中、阿部さんは2020年に開店し、コロナ禍でも県産魚介類を提供してくれる都内の飲食店など取引先の開拓にも努力を重ね、事業を続けてきた。

 開店と前後して、処理水を巡る問題も耳にしていた。「原発事故の風評が落ち着きつつある中で、また(処理水放出による)風評が生まれるのだろうか」。海洋放出に向けた手続きが着々と進む現状に、不安は募る一方だ。政府は風評の抑制に向け理解促進に取り組むとしているが、阿部さんは「処理水が安全・安心であるなら、それが消費者の常識になるくらい浸透させる必要がある」と指摘する。

 情報発信 唯一の道

 専門家も、放出に向けた情報発信に努めることで多くの人の理解を得る必要性を指摘する。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は19日に福島第1原発を視察。海洋放出について「地元の懸念は重々承知しており、尊重しなければならない。信頼を得るための唯一の方法は多くの情報を公開することだ」と強調した。

 海洋放出方針を巡っては、漁業者の反発が根強い上、復興庁が国内外の人を対象に実施した調査でも約6割が方針を知らないことが明らかになった。理解醸成が海洋放出に不可欠な一方、阿部さんは、広く周知することで新たな風評が生まれるのではないかとの懸念も持つ。「敏感に反応する消費者も中にはいる。難題なだけに、はっきりと問題点を示し、どう解決できるかを提示してほしい」。そう注文した。