【参院選最前線ルポ<下>】県内農家...希望どこに 収入減深刻
「このままだと、実りの秋が楽しみにはならないわな」。飯豊山や雄国山など名峰から吹く心地よい風を感じながら喜多方市塩川地区の農家柏木充(72)は、肥料をまく手を休めてそうこぼした。農業を取り巻く環境に好転の兆しは見えず「辞めないのは土地を守りたい一心だけ」と吐露する。
約13ヘクタールを誇る水田を継いで半世紀以上がたつが「今の状況が一番最悪だ」。新型コロナウイルス感染拡大による需要減少に伴う収入減に加え、昨夏は水稲に病気が発生、10アール当たり1俵(60キロ)の収穫減となり、経営を直撃した。追い打ちをかけるように肥料価格も上がり、目先の経費は膨らむ一方だ。柏木は「作っても赤字なのは目に見えている」と打ち明ける。
参院選公示後初の日曜となった26日、事実上の一騎打ちを繰り広げている自民党公認の元県医師会副会長星北斗(58)と、無所属のフリーアナウンサー小野寺彰子(43)の姿は、いずれも会津にあった。
喜多方市で個人演説会に臨んだ星は「ここがまさに天王山で関ケ原だ」と切り出し、課題とする会津地域での知名度向上に躍起になった。地域医療の充実や持続可能な農業体制の構築、少子高齢化対策など、地域が抱える課題の一つ一つを6年をかけて「丁寧に議論する」と宣言。「ビジョンを持つ専門家を(福島の)代表として出すか、反対を目的とする人を出すのか、それを選ぶ選挙だ」と声を張った。
「会津出身の小野寺です」。喜多方市出身の小野寺の選挙カーからは「地元色」を打ち出すアナウンスが響く。会津に掲げるポスターには「会津生まれの会津育ち」と明記する徹底ぶり。西会津町での街頭演説では「会津は1次産業が基幹産業だが『もう続けられない』との農家の声を聞いた」と政権対応を批判。「今の日本を支えてきた人を守らないでこれからの日本の未来はない。チェック機能を働かせる」と強調した。
県内農業を取り巻く環境は年々、厳しさを増している。担い手の高齢化や後継者不足など長年の課題に加え、度重なる災害や新型コロナ、物価高―。5~6月の降ひょうでの県内農作物の被害額は過去2番目に大きい12億9千万円に上る。
「おととしも昨年も我慢してきたが3年続くと、さすがに厳しい」。福島市の果樹農家根津幸夫(67)は県内農家の思いを代弁する。降ひょうでサッカーコート1面分ほどの農園にあるナシとリンゴの9割以上に傷が付いた。昨年は降霜、おととしはナシの黒星病の被害に襲われ「今年こそは」と思っていたさなかの被災。「財政支援はありがたいが、こうも毎年収入にならないのでは経営を続けられない」。県内農家が希望を持てる農業政策が求められている。(文中敬称略)
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