処理水、人口減...足りぬ発信 参院選、議論深まらず

 
県産のヒラメを手にする大川さん。参院選で処理水放出や廃炉についての議論が少なかったことに疑問を口にする=いわき市

 18日間にわたる参院選の論戦が終わった。国民生活を直撃する物価高騰などが大きな争点となる一方、処理水の海洋放出や人口減少、復興など本県が抱える課題への議論は十分に深まらなかった。

 「本県を代表して国会議員を目指すのであれば、処理水などに関して明確な意見を発信するべきではないか」。いわき市などで鮮魚店3店を営む大川魚店の大川勝正社長(47)は参院選で繰り広げられた論戦を振り返り、疑問を口にした。

 福島第1原発で増え続ける処理水の海洋放出を巡っては、来春をめどに政府が放出に向けた手続きを進める。ただ、相次ぎ本県入りした主要政党の党首からも明確な発言はなく、水産業関係者は複雑な思いを抱く。

 県内の水揚げ量は事故から11年を経ても震災前の2割程度にとどまり、後継者不足も懸念される。大川さんら水産加工業者も魚が足りず、他県産を使うなどして商品を確保してきた。

 しかし、主に県産品使用を前提として提案されている風評対策や賠償方針はそうした状況に対応しているとはいえないといい、「関係者との合意形成もできているとは思えない」と指摘する。「参院議員は長期的にじっくり議論する役割もあるはず。原発廃炉に向けた展望をしっかり考えてほしい」

 県内の人口は今年180万人を割り、人口減少対策は喫緊の課題だ。会津若松市で移住定住希望者を呼び込む取り組みをするNPO法人環境地域文化エナジーの新城栄一専務理事(62)は、雇用の受け皿確保のため「国には職場づくりを後押ししてほしい」と話す。会津地方は過疎化も進んでおり、「都市部でも活力が低下している」のが現状だ。だからこそ参院選では議論を深めてほしかった。「人口減問題は一朝一夕では解決しない。長期的な取り組みを期待したい」という。

 猛暑による電力逼迫(ひっぱく)などもあり、原発再稼働など原子力政策の在り方も問われている。「避難生活ではつらい思いをした。もし、夏に電力が足りなくなり、原発を再稼働するとしたら、また事故が起きるのではないかと不安な気持ちもある」。田村市都路町で「よりあい処 華」を営む今泉富代さん(74)は、正直な思いを吐露する。

 「華」は、住民の交流の場や飲食スペースとして、2014(平成26)年にオープンした。当初は、3年で閉じる予定だったという。しかし落ち着いた雰囲気が好評で、県内外のリピーターが増え、「辞めるに辞められなくなった」と苦笑いする。

 11日で震災と原発事故から11年4カ月。「地域住民の心の復興は、まだまだこれから」と今泉さん。参院選では、復興にもあまり目は向かなかったと感じている。「誰かに気にかけてもらうだけで励みになる。政治家には、目を向け続けてほしい」と訴える。