作家・久坂部羊さん「チャンス向け準備を」 高校生に経験語る

福島民友新聞社と一ツ橋文芸教育振興会は15日、郡山市の郡山高と郡山商高で「高校生のための文化講演会」を開き、医師で作家の久坂部(くさかべ)羊(よう)さんが講演した。文部科学省、県教委、集英社の後援。
久坂部さんは大阪府出身。大阪大医学部卒。48歳だった2003年に作家デビューし、「神の手」「怖い患者」など、現代医療に問題提起する作品を次々と発表している。
久坂部さんは「ブラック・ジャックは遠かった」と題して講演。17歳で作家を志したが、なかなかプロになれない中、外務省の医務官として9年間の海外勤務を経て、帰国後は在宅医療に従事したことを紹介。自身が経験した高齢者医療を題材にした作品が作家デビューにつながったとして「31年間努力し、つらさに耐えてきて、駄目かと思った時に光が出た。人生には思いがけないチャンスが回ってくることがある。経験は無駄ではなかった」と振り返った。
その上で、生徒らに「つらいことを耐えることで自分の力は上がる。努力が報われるとは限らないが、報われるまで努力していれば必ず報われる」と説明。「チャンスが巡ってきても、準備ができてなければものにできない。いつやって来るか分からないチャンスに向け、自分を高めていくべきだ」と呼びかけた。
両校にはそれぞれ、同振興会から集英社文庫100冊が贈呈された。
地道な努力大きな差 久坂部さん講演要旨
勉強で分からないことがあった時にやめてしまう人と、頑張ってみる人の差は少しだが、続けていくことで大きな差になる。新聞の社説や難しい本も、読み続ければどんどん分かるようになる。地道な努力を続けた人と目の前の楽しいことだけで生きてきた人は大きな差ができる。
高校2年生の時、小説家になると決意した。研修医になり、原稿も書いていたがプロにはなれなかった。30代の時に外務省の医務官に応募した。周囲から「まともな医師になれない」などと言われた。
帰国後に紹介されたのは高齢者医療の仕事で、そこに宝が隠れていた。人生には思いがけないチャンスが回ってくることがある。31年間ずっと真っ暗な道を歩いていた。
もう駄目かもと思ったが、31年目で光が出た。皆さんには長い時間の可能性がある。目の前の楽しいことだけやったり、人に言われたことを気にしてくよくよするのは時間の無駄。いつ来るか分からないチャンスのため、つらい、暗い道を頑張って進めば光が見えてくる可能性がある。