大型事業巡り応酬、8年ぶりの熱戦 会津若松市長選ルポ

 

 8月4日投開票の会津若松市長選は、いずれも無所属で立候補した新人で元県議会議長の平出孝朗(62)、現職で3選を目指す室井照平(63)、新人で前市議の阿部光正(69)が市役所建て替えなどの大型事業を主な争点に舌戦を繰り広げている。公選制が導入された1947(昭和22)年以降で初めて無投票となった4年前の前回から一転、今回は3氏による選挙戦。市議選とも重なり、熱を帯びている「真夏の決戦」を追った。

 最高気温32度の真夏日となった29日。夏本番を迎えた中、背広と赤のネクタイを身に着けて個人演説会に臨む平出の姿があった。

 「令和変革」。チラシの文字は、新時代とともに市政刷新を目指す意気込みを印象づける。平出は市役所建て替え計画や情報通信技術(ICT)オフィスなど現市政の施策を批判し、市民生活の向上や地域を支える産業の振興を訴えた。

 県議を辞してから4年。告示約3週間前に立候補を表明し、まさに"短期決戦"に挑んでいる。政党や組織に頼らない「市民党」を掲げ、事務所には支援者が慌ただしく出入りする。

 後援会長の佐藤ちはや(67)は「ブランクがあっても温厚で誠実な人柄だからこそ、応援する人が集まる」と強調する。

 「争点は地方創生の流れを加速させるか、止めるかだ」。自民、公明、国民民主各党の地元支部や連合福島から推薦を受けた室井の事務所には国会議員や県議の為書き、企業や団体からの推薦状が壁に並ぶ。陣営は2期8年の実績が評価されている証しと捉える。

 ICTオフィスの整備について「これだけの大型事業を決断できる市長はいない」と陣営関係者。従業員500人規模を目標に企業誘致を続ける市の動向も踏まえ、地域を支える農業、観光業に続く産業への発展にも期待感をにじませる。

 一方、陣営の懸念材料は4年前は無投票で再選を果たした点だ。後援会長の田中文雄(85)は「前回は名前を書いてもらっていない。最後まで油断は大敵だ」と気を引き締める。

 「東武鉄道の会津若松乗り入れ実現」「巨大ハウスの建設で農業振興」。現市政に批判的な立場で市議として活動してきた阿部が掲げる公約は、斬新なキャッチフレーズが目を引く。市議として、市政の現状を伝える年数回発行の地域紙「会津政経新聞」の代表として練ってきた施策だ。

 2007年の市長選に挑んだ時は6984票を獲得した。今回は後援会や選対本部を設けず、草の根運動を展開する。

 市内滝沢町の事務所では首にタオルを巻いた支援者ら数人が動き回る。支援者の一人、渡部義助(76)は「政党や団体などに所属していない人に支援を呼び掛けたい。市政への関心を高められるかが課題になる」と話し、無党派層の取り込みに意欲を示す。

 かつて平出、室井は共に自民党所属の県議として活動した。告示直前に保守層の分断が懸念される形で選挙構図が決まり、各陣営からは「票読みが難しい」との声が漏れる。今年で市制施行120周年を迎える市のかじ取り役を誰に託すのか。勝敗の行方は有権者に委ねられている。(敬称略)