【迫る衆院選・処理水の行方】漁業残す「しっかり考える政治を」

 
処理水を保管するタンクが林立する福島第1原発。政府は風評払拭に取り組むとしているが、漁業者らは反対の立場を崩さず、「漁業を残すことを考えてほしい」との声も上がる=2月

 東日本大震災、東京電力福島第1原発事故から10年が過ぎてもなお、本格操業がかなわない本県漁業。「福島の漁業を残すことをしっかりと考えてくれる政治であってほしい」。いわき市の漁師久保木瑠佑(りゅう)さん(25)は本県漁業の将来を担う一人として、そう望む。

 第1原発では、放射性物質トリチウムを含む処理水が増え続けている。保管するためのタンクをこれ以上増設することは難しいとされ、敷地の逼迫(ひっぱく)は廃炉作業全体に影響を与える―と懸念されてきた。このため、政府は4月、2年後をめどとした海洋放出の方針を決定した。この動きに対し、県漁連は「断固反対」とする特別決議を採択した。

 久保木さんは「処理水を処分することの必要性は理解しているつもり」と語る。ただ「継続して安全性を証明し続けてほしい。その労力は大変なものだと思うが、やってもらわないと困る」と注文を付ける。恐れているのは風評被害だ。

 菅義偉首相は「風評払拭(ふっしょく)に向けあらゆる政策を行う」と強調する。自民、公明両党の復興加速化本部も、政府への提言で海産物の買い取りなどに使える基金の創設を求めるなど、対策の輪郭が見えつつある。

 だが、県漁連の鈴木哲二専務理事(65)は「まずは風評が起こらないような対策が先ではないか」と指摘する。選挙で選ばれる議員には「漁業者がなぜ海洋放出に反対しているかを理解し、しっかりと国会で発信してほしい」と訴える。

 立地町民も思いは複雑だ。いわき市に避難する双葉町の70代男性は「処理水に不安があるというわけではないが、ただ薄めて流すのでは世界から笑われる」と述べ、トリチウムの除去技術の開発などの努力を惜しまないよう念押しする。

 原発事故に伴う課題は山積している。帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた地域について、与党は帰還を希望する全ての人が2020年代のうちに古里へ戻れるよう避難指示を解除するよう提言。政府は具体的な方針を決める考えだ。

 帰還、将来像示して

 提言は「帰還に必要な箇所」を除染し、解除するという内容だ。その範囲は、どのように決められるのか。山菜採りが楽しみだったという葛尾村の半沢富二雄さん(68)=郡山市に避難=は「帰還を考える人の生きがいにも耳を傾けて」と願う。

 双葉町の30代男性も同じ思いだ。「帰りたいと思えるよう、希望を持てる将来像を示すことが大切」